第十三話 甲斐の雪化粧
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「緊急招集……!?」
「ああ、戻ったばっかで悪いが、時間もないから移動しながら状況を説明する。」
寝耳に水の事態に驚いた顔を見せたのは、タイムレーンから戻ったばかりの蛍だった。
蛍は深刻そうな顔をする御幸とともに足早に歩き始めると、服を着替えながら御幸の話に耳を傾けた。
「さっき管理部から連絡があった、タイムシップでの滑落事故が起こったそうだ。」
「なっ…それ落ちたのは客!?まさか警護のキーパー!?」
「いいや、落ちたのはナビゲーターの一色美波。一色は今も行方不明。警護を担当してたのは…寿一人だったそうだ。」
「………えっ……!?」
......................
ー…バタバタバタ……バン!!!!
「こまちゃん!!」
「……蛍…さん…。」
蛍が慌てて部屋に入ると、そこにいたのは尋問され続け憔悴した様子のこまと、それを取り囲むように鎮座した上層部の錚々たる顔ぶれの職員達だった。
だが蛍の目に映っていたのはその弱りきったこまの姿だけで、蛍はこまをかばうように前に立つと職員達に向かって怒りを露わにした。
「…これどういうこと?こまちゃん一人に責任を押し付けようとしとるんなら許さんよ。」
「…蛍くん落ち着きたまえ。私達はただ事情を聞いていただけだよ、は…ははは……。」
蛍のそのあまりの気迫に職員達も気圧されたように言葉を濁していると、御幸がその空気を見かねて割って入った。
「それよりも伊野田部長、一色さんは発見されたんですか?」
「今キーパー数十名で捜索をしている…だが今だ手がかり一つ見つかっていない。」
「…ナビゲーターの制服には発信機が付いているでしょう、それは?」
「それが…落下の衝撃で壊れたのか発見できない。戦の多い時代だ…皆上手く立ち回れず捜索も難航しているようでな…。」
そう言う職員達の顔には、こまと同じく色濃く疲労の色が見えていた。
乗客に被害がなかったのがせめてもの救いとして、この件が世間に漏れればタイムシップでの時間旅行の安全性が問われ窮地に陥りかねない。
その上消息不明になったのが有名な花形ナビゲーターともなれば話題性は十分だった。
予想外の事態にナビゲーター部を管轄する神城部長は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべると、その怒りの矛先をこまに向けた。
「だいたい…キーパーが一人しか警護についていなかったのはキーパー側の手配ミスであろう。しかも新人。
足りないと分かった時点で増員要請をすべきであったのにこのキーパーはそれを怠った。十分な過失だ!!この事件の責任はこのキーパーとそれを管轄する伊野田部長にある!!」
「…そ…それは…」
「…お言葉ですがキーパーの仕事は激務な上に人員不足です。老夫婦二組との申込みであったならば一人での警護は妥当です。それをあなた方が勝手に乗客の増員を受け付けている。急にタイムシップに増員要請を出されても手配は不可能です。
それにタイムシップは落下防止の為の電子壁が作動するはずですが、今回はそのスイッチが壊れていたか入れ忘れられていたかしていたと思われます。でしたらキーパーがそれを予期するのは難しい。ナビゲーター側の初歩的なミス、もしくは点検の不備では?」
「八雲くん…。」
「い…一色は言わずともしれたナビゲーターのトップだ。そんな初歩的なミスを犯すものか!!点検も不備なく行っている、我々に非は無い!!」
ナビゲーター側の職員の神城はどうしても責任の所在をキーパー側にしたいらしく、淡々と言い返す御幸に顔を真っ赤にして激昂した。
そして今もまだ怯え俯いているこまに目をやると、神城はとんでもない言葉を投げかけた。
「そもそも…二人だけで乗って初めから一色を落とそうとでも思っていたんじゃないのか?そのキーパーはナビゲーター志望だって言うじゃないか…ナビゲーターの欠員を望んでいたとしても不思議ではないだろう。」
「なっ……!!そんな…!!」
ー…ドゴッツ………!!!
「「…!!!!」」
「……あんま適当なこと言ったらいかんよ神城さん、うっかり手が滑りそうになったわ。」
「……!!」
「この子は先日僕が人事部のコネ使ってナビゲーターの欠員に入れようかって誘っても自分の力でなりたいけんって断ったんや。そんな事言う子がそりゃあ無いわ。」
「ほ……蛍さん…。」
「そ…そそそうだぞ神城君、さすがにそれは言い過ぎだ、早く謝りたまえ!!」
「……ちっ…。」
神城部長のすぐ横のコンクリート壁は、一瞬で蛍によって見るも無残な大穴が開けられていた。
神城もさすがに命は惜しかったのか不服そうな顔を浮かべると、促されるままに小さくこまに頭を下げた。
「とにかく今は責任の所在よりも一色の発見と保護が優先でしょう。ともあれ寿に落ち度がなかったとも言えません、ですからこの件は私の班が中心に捜索します。
同じキーパーでも担当する時代が違えば勝手が変わって動きづらくなる。戦国担当のキーパーである我々が捜索する方が効率もいい。」
「そうか、八雲君がそうしてくれるなら助かるが…くれぐれも内密に頼むよ。この件が明るみに出れば我が国を上げたタイムレーン事業の破綻の発端になりかねない。
……それに…一色は大金を生み出すナビゲーターだ、一刻も早く復帰して貰わねば困るのだ。」
「…そこかよ。」
「ん?」
「いえ、分かりました…。」
「八雲、本当に大丈夫か?捜索はこちらでも手の空いている者を派遣する、困った時は言ってくれ。」
「ありがとうございます、伊野田部長。」
「ふん…情報が世間に漏れれば国はそのキーパーに責任をなすりつけてでもタイムレーンを守ろうとするぞ。せいぜい気をつけるんだな。」
神城は皮肉たっぷりにそう言い捨てると、つかつかと足早に部屋を出て行き他の職員達もそれに続いた。
部屋に残された八雲班の三人は互いに向き合うと、こまは二人に深々と頭を下げた。
「本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした…子どもに気を取られて周りが見えていなかった私の過失です。美波さんは必ず無事に見つけ出してみせます…。」
「…。」
「こまちゃん…。」
「でも。」
「……?」
「私、美波さんを突き落としたりしていません…穴を開けてナビゲーターになろうなんて…思ったことすらありません!!それだけは…信じて下さい……!!」
こまの絞り出したように言った言葉は、先程までの疑いの視線への心からの反論だった。
やっとの思いで紡いたこまの言葉を聞いた蛍と御幸は顔色を変えることもなく歩きだすと、俯き震えるこまの背中をポンと叩いた。
「「当たり前だ。」」
「御幸さん…蛍さん……。」
曲がりなりにもここまで一緒にやってきた班員であるこまを疑う余地は蛍にも御幸にも無い。
そんな御幸と蛍の言葉は、崩れ落ちそうだったこまの心を一瞬ですくい上げた。
「じゃあすぐに捜索にかかるぞ。タイムレーンでの調査をしながら家ごとに情報収集だ。」
「僕がだいぶ自由に動けるけん広域を探してみる。戦が始まったら何かと厄介や、急ごう。」
「寿、お前は晴信に頼んで忍を使って情報収集してもらえ。甲斐は滑落場所に近い、何か情報がすでにあるかもしれない。」
「わ…分かりました。」
こまは御幸にそう指示を出されると、条件反射的に恐る恐る蛍の方を見やった。
だがそんなこまに気付いた蛍は何事もなかったようにニコッと笑うと、こまの頭にポンと手を置いた。
「……今は、とにかく美波さんを発見する事に集中しよ。こまちゃんに罪をなすりつけるなんて…僕が死んでもさせん。」
「蛍さん…はい。」
あの日蛍に言われた約束も、いなくなってしまった美波の所在も自分の置かれた立場も、全てを考えるこまの頭は既にキャパオーバーでパンク寸前だった。
だが今はその全てを投げうってでも美波を助けることに全力を注ぐべきだ。
その言葉だけを合言葉にこまは揺れ続ける心を奮い立たせ、美波の捜索に向かったのだった…。
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「緊急招集……!?」
「ああ、戻ったばっかで悪いが、時間もないから移動しながら状況を説明する。」
寝耳に水の事態に驚いた顔を見せたのは、タイムレーンから戻ったばかりの蛍だった。
蛍は深刻そうな顔をする御幸とともに足早に歩き始めると、服を着替えながら御幸の話に耳を傾けた。
「さっき管理部から連絡があった、タイムシップでの滑落事故が起こったそうだ。」
「なっ…それ落ちたのは客!?まさか警護のキーパー!?」
「いいや、落ちたのはナビゲーターの一色美波。一色は今も行方不明。警護を担当してたのは…寿一人だったそうだ。」
「………えっ……!?」
......................
ー…バタバタバタ……バン!!!!
「こまちゃん!!」
「……蛍…さん…。」
蛍が慌てて部屋に入ると、そこにいたのは尋問され続け憔悴した様子のこまと、それを取り囲むように鎮座した上層部の錚々たる顔ぶれの職員達だった。
だが蛍の目に映っていたのはその弱りきったこまの姿だけで、蛍はこまをかばうように前に立つと職員達に向かって怒りを露わにした。
「…これどういうこと?こまちゃん一人に責任を押し付けようとしとるんなら許さんよ。」
「…蛍くん落ち着きたまえ。私達はただ事情を聞いていただけだよ、は…ははは……。」
蛍のそのあまりの気迫に職員達も気圧されたように言葉を濁していると、御幸がその空気を見かねて割って入った。
「それよりも伊野田部長、一色さんは発見されたんですか?」
「今キーパー数十名で捜索をしている…だが今だ手がかり一つ見つかっていない。」
「…ナビゲーターの制服には発信機が付いているでしょう、それは?」
「それが…落下の衝撃で壊れたのか発見できない。戦の多い時代だ…皆上手く立ち回れず捜索も難航しているようでな…。」
そう言う職員達の顔には、こまと同じく色濃く疲労の色が見えていた。
乗客に被害がなかったのがせめてもの救いとして、この件が世間に漏れればタイムシップでの時間旅行の安全性が問われ窮地に陥りかねない。
その上消息不明になったのが有名な花形ナビゲーターともなれば話題性は十分だった。
予想外の事態にナビゲーター部を管轄する神城部長は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべると、その怒りの矛先をこまに向けた。
「だいたい…キーパーが一人しか警護についていなかったのはキーパー側の手配ミスであろう。しかも新人。
足りないと分かった時点で増員要請をすべきであったのにこのキーパーはそれを怠った。十分な過失だ!!この事件の責任はこのキーパーとそれを管轄する伊野田部長にある!!」
「…そ…それは…」
「…お言葉ですがキーパーの仕事は激務な上に人員不足です。老夫婦二組との申込みであったならば一人での警護は妥当です。それをあなた方が勝手に乗客の増員を受け付けている。急にタイムシップに増員要請を出されても手配は不可能です。
それにタイムシップは落下防止の為の電子壁が作動するはずですが、今回はそのスイッチが壊れていたか入れ忘れられていたかしていたと思われます。でしたらキーパーがそれを予期するのは難しい。ナビゲーター側の初歩的なミス、もしくは点検の不備では?」
「八雲くん…。」
「い…一色は言わずともしれたナビゲーターのトップだ。そんな初歩的なミスを犯すものか!!点検も不備なく行っている、我々に非は無い!!」
ナビゲーター側の職員の神城はどうしても責任の所在をキーパー側にしたいらしく、淡々と言い返す御幸に顔を真っ赤にして激昂した。
そして今もまだ怯え俯いているこまに目をやると、神城はとんでもない言葉を投げかけた。
「そもそも…二人だけで乗って初めから一色を落とそうとでも思っていたんじゃないのか?そのキーパーはナビゲーター志望だって言うじゃないか…ナビゲーターの欠員を望んでいたとしても不思議ではないだろう。」
「なっ……!!そんな…!!」
ー…ドゴッツ………!!!
「「…!!!!」」
「……あんま適当なこと言ったらいかんよ神城さん、うっかり手が滑りそうになったわ。」
「……!!」
「この子は先日僕が人事部のコネ使ってナビゲーターの欠員に入れようかって誘っても自分の力でなりたいけんって断ったんや。そんな事言う子がそりゃあ無いわ。」
「ほ……蛍さん…。」
「そ…そそそうだぞ神城君、さすがにそれは言い過ぎだ、早く謝りたまえ!!」
「……ちっ…。」
神城部長のすぐ横のコンクリート壁は、一瞬で蛍によって見るも無残な大穴が開けられていた。
神城もさすがに命は惜しかったのか不服そうな顔を浮かべると、促されるままに小さくこまに頭を下げた。
「とにかく今は責任の所在よりも一色の発見と保護が優先でしょう。ともあれ寿に落ち度がなかったとも言えません、ですからこの件は私の班が中心に捜索します。
同じキーパーでも担当する時代が違えば勝手が変わって動きづらくなる。戦国担当のキーパーである我々が捜索する方が効率もいい。」
「そうか、八雲君がそうしてくれるなら助かるが…くれぐれも内密に頼むよ。この件が明るみに出れば我が国を上げたタイムレーン事業の破綻の発端になりかねない。
……それに…一色は大金を生み出すナビゲーターだ、一刻も早く復帰して貰わねば困るのだ。」
「…そこかよ。」
「ん?」
「いえ、分かりました…。」
「八雲、本当に大丈夫か?捜索はこちらでも手の空いている者を派遣する、困った時は言ってくれ。」
「ありがとうございます、伊野田部長。」
「ふん…情報が世間に漏れれば国はそのキーパーに責任をなすりつけてでもタイムレーンを守ろうとするぞ。せいぜい気をつけるんだな。」
神城は皮肉たっぷりにそう言い捨てると、つかつかと足早に部屋を出て行き他の職員達もそれに続いた。
部屋に残された八雲班の三人は互いに向き合うと、こまは二人に深々と頭を下げた。
「本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした…子どもに気を取られて周りが見えていなかった私の過失です。美波さんは必ず無事に見つけ出してみせます…。」
「…。」
「こまちゃん…。」
「でも。」
「……?」
「私、美波さんを突き落としたりしていません…穴を開けてナビゲーターになろうなんて…思ったことすらありません!!それだけは…信じて下さい……!!」
こまの絞り出したように言った言葉は、先程までの疑いの視線への心からの反論だった。
やっとの思いで紡いたこまの言葉を聞いた蛍と御幸は顔色を変えることもなく歩きだすと、俯き震えるこまの背中をポンと叩いた。
「「当たり前だ。」」
「御幸さん…蛍さん……。」
曲がりなりにもここまで一緒にやってきた班員であるこまを疑う余地は蛍にも御幸にも無い。
そんな御幸と蛍の言葉は、崩れ落ちそうだったこまの心を一瞬ですくい上げた。
「じゃあすぐに捜索にかかるぞ。タイムレーンでの調査をしながら家ごとに情報収集だ。」
「僕がだいぶ自由に動けるけん広域を探してみる。戦が始まったら何かと厄介や、急ごう。」
「寿、お前は晴信に頼んで忍を使って情報収集してもらえ。甲斐は滑落場所に近い、何か情報がすでにあるかもしれない。」
「わ…分かりました。」
こまは御幸にそう指示を出されると、条件反射的に恐る恐る蛍の方を見やった。
だがそんなこまに気付いた蛍は何事もなかったようにニコッと笑うと、こまの頭にポンと手を置いた。
「……今は、とにかく美波さんを発見する事に集中しよ。こまちゃんに罪をなすりつけるなんて…僕が死んでもさせん。」
「蛍さん…はい。」
あの日蛍に言われた約束も、いなくなってしまった美波の所在も自分の置かれた立場も、全てを考えるこまの頭は既にキャパオーバーでパンク寸前だった。
だが今はその全てを投げうってでも美波を助けることに全力を注ぐべきだ。
その言葉だけを合言葉にこまは揺れ続ける心を奮い立たせ、美波の捜索に向かったのだった…。
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