第1章
名前変換
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会社帰り、寄り道して丸の内を歩いてた。
すると、いきなり視界を白に染める強烈な光に襲われた。
眩しさで視界を塞がれ、何が起こっているのか分からない。
次に瞼を開いた時、そこは見慣れた東京の駅舎前ではなく吹雪く荒涼とした雪景色があった。
そして視界に入ったのは、長身に黒いコートを纏った鋭い眼光を放つ男性。
吹雪の中で顔は見えない。
彼は私の存在に気付くと、間を詰めるようにゆっくりと近付いてくる。
「…戻って来たのか?」
その声は低く、強風に掻き消されそうな呟きだった。
1
男は足元の雪を踏みしめながら無言で近付いて来る。
腰には日本刀。
あり得ない出立ちに緊張が走る。
あっと言う間に距離を詰められ突然腕を掴まれたが決して乱暴ではなく、それでも拒絶を許さない力があった。
連れて来られたのは、無機質な建物の奥にある狭い部屋だった。
木の壁に囲まれ、部屋の中心には机と椅子。
冷え切った空気が張りつめている。
「座れ」
肩が小さく跳ねる。
男性はそんな私を厳しい眼でこちらを見下ろす。
私は緊張しながら椅子に腰を下ろし、両手を膝に置いた。
寒さと不安、緊張で手が震えた。
男性は机を挟み向かい側に座ると、慣れた仕草でマッチを擦り煙草に火を着ける。
「名は?」
低く乾いた声。
「苗字…名前です」
不安と緊張で声が震える。
「珍しいな名だな」
短い返事だったが、何かを探るような疑うような雰囲気が漂う。
「…そう…ですか?」
答えた瞬間、男性の眉間に僅かながら皺が寄った。
「年齢、住んでいる場所、家族構成は?」
そっけない声色と威圧感に声が詰まる。
知らない場所に突然放り込まれた混乱で思考がハッキリしない。
それと同時に本能的な恐怖が言葉を奪った。
男性の視線も鋭さを増す。
「どうした、言えないのか?」
「…あの…」
目を逸らし、俯くのが精一杯だった。
男性は咥えていた煙草を灰皿へと押し付け煙を吐くと掠れた声で告げる。
「吹雪の中、薄着で立ち尽くす女がいるなら不審者以外の何者でもない」
その言い方は私の心の声に対する回答のようだった。
しかしその声音は低く乾いていて、慰めにすら聞こえない。
「…何処から来た?」
いきなり核心を突かれたような気分になった。
「…東京です」
素直に答える以外に選択肢が浮かばなかった。
「東京?」
「突然眩しくなって…気が付いたら吹雪の中に立ってました…」
「…」
私の答えに男性は黙ってしまった。
当然だ、自分でも何を言っているのか分からない。
「しばらくは此処に居てもらう」
それだけ告げ、男性は視線を外す。
まるで見つめる事を拒絶するかように…
私は怯ながら俯くしかなかった。
取り調べ室には薪のはぜる音だけが響く。
私は椅子に座り、気まずい雰囲気で見知らぬ男性と対峙していた。
男性は机を挟んで座り、煙草を咥えたまま黙ってる。
視線は鋭いが、その奥にある感情は読めない。
「…続けるぞ」
低い声に肩がびくりと跳ねる。
「職業は?」
迷ったが、素直に答えた。
「会社員…です」
声が震えた。
男性は机越しにじっと睨んでくる。
「会社員とはどういう仕事だ?」
男性の反応に激しい違和感を覚える。
会社員が通じない…
相手は日本刀を所持している。
冗談にしては理解に苦しむ。
「事務…です
書類作成とか…」
「年齢は?」
「…27歳です」
私の解答に男性の瞳がわずかだが揺れたような気がした。
「今の貴様は拘束の対象だ、理解できるか?」
男性は煙を吐きながら淡々と話し始める。
声色に攻撃性や冷たさはないが、思いやりも優しさもない。
私は受け入れるしかなかった。
「最後にもう一度だけ聞く」
男性は真っ直ぐに此方見据え、低い声で問い掛ける。
「何処から来た?」
私は息を呑んだ。
理由は分からない。
ただ目の前の男性に心中を見透かされているような…
彼は答えを知っていて、答え合わせに付き合わされているような…
不気味で恐ろしかった。
「東京駅…です」
さっきより詳細に答えたが、納得できないといでも言いたげに静かに立ち上がった。
「明日、取り調べを再開する」
そう言い残すと部屋を出て行ってしまう。
扉の向こうから施錠するような音が響いた。
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