【荼毘爆】Holy Night.
世間はクリスマスらしい。
だから家に向かうついでにコンビニで2個入りのケーキを買った。
別に浮かれているわけではないけれど、少しでもイベント気分を味わってもらえればいい、なんて。
(俺らしくねぇ考え方)
自分のことでなく誰かのことを考えるなんて絶対に昔の俺からは考えられない。
それでも最近はそれが当たり前になってしまった。
ドアを軽くノックしてから開ける。音に気付いたらしい荼毘が「おぅ」と声を上げた。
「お疲れ。パーティとやらは終わったのか?」
「ん、まぁな」
荼毘の言うパーティとは一年A組のクリスマスパーティのことだ。
ここに来る前──二十時頃まで開催されていた。
それなりに正装して豪華な食べ物を食べ、音楽を聞き、プレゼント交換まで行われた。
昼に始まったパーティだったが、騒ぐことが大好きなA組連中の所為でこんな時間になってしまった。
愚痴っぽく言うと荼毘はククッと笑った。
「楽しそうで何よりだな」
「別に。つーか、これ」
買ってきたケーキを袋ごと渡す。中身を見た荼毘は少し驚いたようだった。
恐らく俺に似合わないと思ったのだろう。
だから何かを言われる前に言った。
「クリスマスっつーもん全然楽しんだことなさそうなお前の為にわざわざそれっぽいもん買ってきてやったんだから感謝しろよな」
「息継ぎなしの長文お疲れ」
「……うっぜぇ」
「なんてな。爆豪らしくねぇから逆にすげぇ嬉しいぜ。そこまで俺のこと考えてくれてたんだなって」
出来ることなら否定したいがそういうわけにもいかない。
事実、俺はケーキを買ってきてしまっているのだから。
思いっきり溜息を吐くことでその場をやり過ごす。
その間に荼毘はケーキを机の上に置き、コンビニで貰ったフォークをふたつ並べていた。
「ま、いいじゃねぇか。食おうぜ」
「あぁ」
買ってきたケーキはどちらもショートケーキだ。
荼毘が即イチゴにフォークを刺したのを見て笑ってしまう。
「そういうの普通取っとくもんじゃねぇ?」
「って言ってるお前もイチゴから食ってんじゃねぇか」
「だからこんなとこで被ると思わなかった」
ぱくっとイチゴを最初に食べる。自分と同じ食べ方をする奴を見るのは初めてだった。
世間一般と逆行している俺たちらしい気もする。
「生クリーム食う前に食わねぇと甘くなくなるだろ」
「まぁな。俺もそう思う。けど取っとく奴の方が多い」
「へぇ。少数派か。いいねぇ」
ニイッと笑った荼毘はイチゴを食べ、ケーキを一気に半分食べた。
そう言えば甘い物が好きかどうか聞き損ねていたが、食べているということは少なくとも嫌いではないのだろう。
俺自身甘い物より辛い物の方が好きだが、今日ぐらいケーキを食べてもいいとは思う。
パーティではケーキなど一切口にしなかったけれど。
結局荼毘といるからこういう物が食べたくなるのだろう。一緒にイベントを楽しみたいという思いが少しだけあるのかもしれない。
「ありがとな、買ってきてくれて」
「……別に。ただの気紛れだ」
「そう言いつつ嬉しそうに食ってんのバレバレだぜ?」
「ンなわけねぇだろ」
べぇっと舌を出す。本心など別に伝わらなくていい。
とはいえ荼毘のことだ。俺の気持ちなど分かっているだろう、きっと。
「ククッ……可愛い奴」
「そこ、可愛くねぇ奴って言うとこだろ」
呆れた顔をして睨んでも荼毘は上機嫌に笑うだけだった。
「お前にはその方が有効的だと思ってな」
「何だそりゃ」
荼毘は肩を竦めるだけで何も言わなかった。
追求するのを諦め、ケーキの続きを食べる。
やっと半分食べ終えて対面に目を向ける。
やけに俺の顔を眺めてくると思ったら荼毘は早々に食べ終えていたらしい。
「食うか?」
「食わして」
「はあ?」
荼毘のジェスチャーを見れば求めていることが何かぐらい分かる。
無視して食べ続けても良かったが、今日の俺はやっぱりおかしかった。
「……仕方ねぇな」
フォークでケーキを切り、口元に運ぶ。
パクッと食べた荼毘は嬉しそうに笑った。
いつもの見下す笑みとは違い、心から嬉しそうに。
その笑顔を見ると俺の心は揺さぶられる。
可愛いとすら思うから俺も大分イカレてきた。
決して口にはしないけれど。
「サンキュ。お前のおかげで今までで一番いいクリスマスになったぜ」
「まぁ、俺もそう思わなくねぇな」
「お?素直に言って貰えんのは嬉しいねェ」
「……今日ぐらいな」
年に一度のクリスマスぐらい──素直になってやってもいいかもしれないと思ったから。
最後の一口のケーキをフォークに載せて差し出した。
「ほらよ」
一瞬驚いた顔をしてから荼毘はパクッと食べた。
俺の行動が意外だったことなんて俺が一番分かっている。
荼毘は大きく笑って言った。
「ククッ……あーあ。爆豪ってマジで可愛いよな」
「ンなわけねぇだろ」
「そんでいつも俺が思ってる以上のことしてきやがる」
「それはテメェも一緒だけどな」
「あー、それって夜の話?」
「はあっ!?ンなこと言ってねぇだろ!」
立ち上がってキレる俺を見て荼毘はニッと笑った。
からかわれていることなど当然分かっているが、こういう時にキレずに済む程大人ではない。
「悪ぃ、悪ぃ。聖なる夜ってやつだから許せよ」
「絶対ぇさっきまでクリスマス自体忘れてたくせに都合いい奴」
「まぁな。で、泊まって行くだろ?」
「おぅ。そのつもりだったけど」
「勿論いいぜ。俺もそのつもりだった」
荼毘は手を伸ばして俺の頭を撫でた。
嫌がらずに撫でさせてやるのは久々かもしれない。
「今日は色々ありがとな。お前と付き合ってからイベント事が楽しいと思える」
「んじゃ、これからも教えてやんよ」
「おー、頼むわ。そうだ。メリークリスマス、ってな」
ニッと笑った荼毘が楽しそうで嬉しくなる。
楽しい思い出ならこれから先も沢山作ってやるから。
だからずっと一緒にいて欲しい──なんて絶対に言わないけれど代わりに笑顔を見せてやった。
聖なる夜だから、今日ぐらい。
だから家に向かうついでにコンビニで2個入りのケーキを買った。
別に浮かれているわけではないけれど、少しでもイベント気分を味わってもらえればいい、なんて。
(俺らしくねぇ考え方)
自分のことでなく誰かのことを考えるなんて絶対に昔の俺からは考えられない。
それでも最近はそれが当たり前になってしまった。
ドアを軽くノックしてから開ける。音に気付いたらしい荼毘が「おぅ」と声を上げた。
「お疲れ。パーティとやらは終わったのか?」
「ん、まぁな」
荼毘の言うパーティとは一年A組のクリスマスパーティのことだ。
ここに来る前──二十時頃まで開催されていた。
それなりに正装して豪華な食べ物を食べ、音楽を聞き、プレゼント交換まで行われた。
昼に始まったパーティだったが、騒ぐことが大好きなA組連中の所為でこんな時間になってしまった。
愚痴っぽく言うと荼毘はククッと笑った。
「楽しそうで何よりだな」
「別に。つーか、これ」
買ってきたケーキを袋ごと渡す。中身を見た荼毘は少し驚いたようだった。
恐らく俺に似合わないと思ったのだろう。
だから何かを言われる前に言った。
「クリスマスっつーもん全然楽しんだことなさそうなお前の為にわざわざそれっぽいもん買ってきてやったんだから感謝しろよな」
「息継ぎなしの長文お疲れ」
「……うっぜぇ」
「なんてな。爆豪らしくねぇから逆にすげぇ嬉しいぜ。そこまで俺のこと考えてくれてたんだなって」
出来ることなら否定したいがそういうわけにもいかない。
事実、俺はケーキを買ってきてしまっているのだから。
思いっきり溜息を吐くことでその場をやり過ごす。
その間に荼毘はケーキを机の上に置き、コンビニで貰ったフォークをふたつ並べていた。
「ま、いいじゃねぇか。食おうぜ」
「あぁ」
買ってきたケーキはどちらもショートケーキだ。
荼毘が即イチゴにフォークを刺したのを見て笑ってしまう。
「そういうの普通取っとくもんじゃねぇ?」
「って言ってるお前もイチゴから食ってんじゃねぇか」
「だからこんなとこで被ると思わなかった」
ぱくっとイチゴを最初に食べる。自分と同じ食べ方をする奴を見るのは初めてだった。
世間一般と逆行している俺たちらしい気もする。
「生クリーム食う前に食わねぇと甘くなくなるだろ」
「まぁな。俺もそう思う。けど取っとく奴の方が多い」
「へぇ。少数派か。いいねぇ」
ニイッと笑った荼毘はイチゴを食べ、ケーキを一気に半分食べた。
そう言えば甘い物が好きかどうか聞き損ねていたが、食べているということは少なくとも嫌いではないのだろう。
俺自身甘い物より辛い物の方が好きだが、今日ぐらいケーキを食べてもいいとは思う。
パーティではケーキなど一切口にしなかったけれど。
結局荼毘といるからこういう物が食べたくなるのだろう。一緒にイベントを楽しみたいという思いが少しだけあるのかもしれない。
「ありがとな、買ってきてくれて」
「……別に。ただの気紛れだ」
「そう言いつつ嬉しそうに食ってんのバレバレだぜ?」
「ンなわけねぇだろ」
べぇっと舌を出す。本心など別に伝わらなくていい。
とはいえ荼毘のことだ。俺の気持ちなど分かっているだろう、きっと。
「ククッ……可愛い奴」
「そこ、可愛くねぇ奴って言うとこだろ」
呆れた顔をして睨んでも荼毘は上機嫌に笑うだけだった。
「お前にはその方が有効的だと思ってな」
「何だそりゃ」
荼毘は肩を竦めるだけで何も言わなかった。
追求するのを諦め、ケーキの続きを食べる。
やっと半分食べ終えて対面に目を向ける。
やけに俺の顔を眺めてくると思ったら荼毘は早々に食べ終えていたらしい。
「食うか?」
「食わして」
「はあ?」
荼毘のジェスチャーを見れば求めていることが何かぐらい分かる。
無視して食べ続けても良かったが、今日の俺はやっぱりおかしかった。
「……仕方ねぇな」
フォークでケーキを切り、口元に運ぶ。
パクッと食べた荼毘は嬉しそうに笑った。
いつもの見下す笑みとは違い、心から嬉しそうに。
その笑顔を見ると俺の心は揺さぶられる。
可愛いとすら思うから俺も大分イカレてきた。
決して口にはしないけれど。
「サンキュ。お前のおかげで今までで一番いいクリスマスになったぜ」
「まぁ、俺もそう思わなくねぇな」
「お?素直に言って貰えんのは嬉しいねェ」
「……今日ぐらいな」
年に一度のクリスマスぐらい──素直になってやってもいいかもしれないと思ったから。
最後の一口のケーキをフォークに載せて差し出した。
「ほらよ」
一瞬驚いた顔をしてから荼毘はパクッと食べた。
俺の行動が意外だったことなんて俺が一番分かっている。
荼毘は大きく笑って言った。
「ククッ……あーあ。爆豪ってマジで可愛いよな」
「ンなわけねぇだろ」
「そんでいつも俺が思ってる以上のことしてきやがる」
「それはテメェも一緒だけどな」
「あー、それって夜の話?」
「はあっ!?ンなこと言ってねぇだろ!」
立ち上がってキレる俺を見て荼毘はニッと笑った。
からかわれていることなど当然分かっているが、こういう時にキレずに済む程大人ではない。
「悪ぃ、悪ぃ。聖なる夜ってやつだから許せよ」
「絶対ぇさっきまでクリスマス自体忘れてたくせに都合いい奴」
「まぁな。で、泊まって行くだろ?」
「おぅ。そのつもりだったけど」
「勿論いいぜ。俺もそのつもりだった」
荼毘は手を伸ばして俺の頭を撫でた。
嫌がらずに撫でさせてやるのは久々かもしれない。
「今日は色々ありがとな。お前と付き合ってからイベント事が楽しいと思える」
「んじゃ、これからも教えてやんよ」
「おー、頼むわ。そうだ。メリークリスマス、ってな」
ニッと笑った荼毘が楽しそうで嬉しくなる。
楽しい思い出ならこれから先も沢山作ってやるから。
だからずっと一緒にいて欲しい──なんて絶対に言わないけれど代わりに笑顔を見せてやった。
聖なる夜だから、今日ぐらい。
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