【荼毘爆】蒼い炎を爆破したい。
『暇なら出掛けようぜ』
届いたメッセージを見て一言返す。
『んじゃ、駅で』
『了解』
簡素なやり取りを交わした後、外出準備をする。
自宅から駅までは10分程度だ。
恐らく自分の方が先に着くだろう。
「出掛けてくる」
大声で母親に言うと「今日はちゃんと帰ってきなさいよー!」と大声で返された。
「わーってるわ!」
バンッとドアを閉めて外に出る。
母親とのやり取りはいつもこんな感じだ。
2月の外は思った以上に寒く、マフラーに顔を埋めた。
手袋も持ってくるべきだったかもしれない。
「……チッ」
小さく舌打ちをする。冬はどうも苦手だ。
寒さで身体の動きは悪くなるし自分の「個性」もなかなか発動しなくなる。
両手をポケットに突っ込んだまま歩いていると駅にもう燈矢が待っているのが見えた。
特徴的な外見と目立つ白い髪。
軽く急ぎ足で向かった。
「何でそんなに早ぇんだよ」
「連絡した時にはもうこの辺にいたからな。爆豪なら絶対ぇ駅で約束って言うだろ」
「断られるとか思わねェのか?」
「思わねェな。今まで一度も断られたことねェし」
ククッと笑った燈矢は俺の手を掴んだ。
「冷てェな。こんなんじゃ得意の爆破が出来ねェぜ?」
「手袋忘れたんだっつの」
「仕方ねェ。じゃあこれ貸してやる」
燈矢は自分がはめていた手袋を外し、俺の手に押し付けた。
断ろうか数秒悩んで結局そのまま両手にはめた。
黒い手袋は素材が良く、温かかった。
「……サンキュ」
「いいって。俺はマフラーがあれば充分だからな。マジで寒かったら炎出すし」
「ほいほい出すんじゃねェよ。外見通り放火魔みてェな奴だな」
「なら爆豪で暖取るか」
そう言って燈矢は俺に抱き着いた。
「人前で抱き着くんじゃねェ!」
肘打ちを喰らわせて燈矢を突き飛ばす。
燈矢は「痛ェなぁ」と笑った。
「お前な、いつも言ってんだろうがっ!」
「まぁな。けど抱き着きたくなったんだから仕方ねぇだろ」
「少しぐらい我慢しろや」
「少しねェ……分かった分かった」
ひらひらと手を振り、燈矢はやっと公園の方へ歩き出した。
付き合って一ヶ月経って気付いたのは燈矢が人目を一切気にしないということだ。
所構わず抱き着くしキスだってしてくる。
それが俺には理解出来ず、何度も拒否しているのに燈矢は気にせず同じことを繰り返す。
いっそ嫌がらせかと思う程だ。
「あ、公園来ちまったけど寒ぃんだっけか?」
「いや。手袋借りたし大丈夫」
「なら温かい飲み物でも買ってその辺ぶらぶらするか」
「ん」
公園に併設されたカフェに寄りテイクアウトで商品を注文する。
燈矢はブラックコーヒーを頼み、俺はカフェオレを頼んだ。
渡されたカップの温かさに救われる。
「あったけぇ」
「だな。そういや今日、泊まっていけんのか?」
「無理。釘刺されたからそろそろ帰らねェと」
燈矢と付き合ってから燈矢の家に泊まることが多くなった俺は母親に注意されるようになった。
先程のように「帰ってこい」と言われた日に帰らなかった時はしばらく外出禁止になった程だ。
逆らい続けても良いのだが、燈矢との関係を隠しておきたい俺としてはなるべく波風を立てたくない。
「残念。じゃあやっぱ今くっつくしかねェな」
燈矢は当たり前のように顔を近付けて俺の頬にキスをした。
避ける間もなくキスをされ、俺はぐいっと眉間にシワを寄せる。
「おい!」
「これぐらいいいだろ?」
「駄目だっつってんだろ!テメェ、本当に聞いてんのかよ」
不快感を露わにしても燈矢は肩を竦めるだけだ。
何度言っても学習しない。
「聞いてるって。聞いた上で無視してんだ」
「……もっとあったまって来たらテメェのこと爆破してやる」
「おー、怖ェ」
全く怖がった素振りもなく燈矢はブラックコーヒーを飲みながら歩き出した。
はぁ、と溜息をつきつつ隣を歩く。
冬の公園はもの寂しい。人も少なく植物も色褪せている。
けれどそういう雰囲気が俺は嫌いではなかった。
少し歩いてから燈矢が言った。
「ところでまだ寒ぃ?」
「いや。大分あったまった」
「良かった。やっぱりお前には俺が必要だろ」
「その為に怒らせてたとか言うんじゃねェだろうな?」
「その為に怒らせてた」
「ぶっ放してェ、本気で」
燈矢が俺を温める為にくっついてきたというのは当然嘘だ。
そんなことがなくてもくっついてくるのは知っている。
けれど結果的に身体が温まったのも事実だった。
「ククッ……いつか俺、お前に爆破されそうだな」
「いつでもしてやんよ」
「それでも恋人かぁ?」
大きく笑った燈矢は俺の肩に手を回して言った。
「けどそういう物騒なとこ、爆豪らしくて好きだぜ」
「……そうかよ」
「その照れてる顔の方がもっと好きだけどな」
「うっぜ……んっ!」
押し付けられた唇に塞がれ言葉に詰まる。
バシバシと強く身体を叩くとやっと解放された。
「テメェ……!」
「悪ぃ、悪ぃ」
身体を離した燈矢は掌の上に蒼炎を繰り出した。
そしてニィッと笑う。
「お前がやりてぇならいつでも相手してやるよ」
「ハッ!面白ぇ!」
ギラギラと闘志を燃やして燈矢を睨む。
けれど俺の口元は笑っていた。
寒さなんてもう、全く気にならなかった。
いつか必ず蒼い炎を爆破したいと思う。
──と、同時にこういう所も含めて燈矢が好きなのだと思うのだ。
届いたメッセージを見て一言返す。
『んじゃ、駅で』
『了解』
簡素なやり取りを交わした後、外出準備をする。
自宅から駅までは10分程度だ。
恐らく自分の方が先に着くだろう。
「出掛けてくる」
大声で母親に言うと「今日はちゃんと帰ってきなさいよー!」と大声で返された。
「わーってるわ!」
バンッとドアを閉めて外に出る。
母親とのやり取りはいつもこんな感じだ。
2月の外は思った以上に寒く、マフラーに顔を埋めた。
手袋も持ってくるべきだったかもしれない。
「……チッ」
小さく舌打ちをする。冬はどうも苦手だ。
寒さで身体の動きは悪くなるし自分の「個性」もなかなか発動しなくなる。
両手をポケットに突っ込んだまま歩いていると駅にもう燈矢が待っているのが見えた。
特徴的な外見と目立つ白い髪。
軽く急ぎ足で向かった。
「何でそんなに早ぇんだよ」
「連絡した時にはもうこの辺にいたからな。爆豪なら絶対ぇ駅で約束って言うだろ」
「断られるとか思わねェのか?」
「思わねェな。今まで一度も断られたことねェし」
ククッと笑った燈矢は俺の手を掴んだ。
「冷てェな。こんなんじゃ得意の爆破が出来ねェぜ?」
「手袋忘れたんだっつの」
「仕方ねェ。じゃあこれ貸してやる」
燈矢は自分がはめていた手袋を外し、俺の手に押し付けた。
断ろうか数秒悩んで結局そのまま両手にはめた。
黒い手袋は素材が良く、温かかった。
「……サンキュ」
「いいって。俺はマフラーがあれば充分だからな。マジで寒かったら炎出すし」
「ほいほい出すんじゃねェよ。外見通り放火魔みてェな奴だな」
「なら爆豪で暖取るか」
そう言って燈矢は俺に抱き着いた。
「人前で抱き着くんじゃねェ!」
肘打ちを喰らわせて燈矢を突き飛ばす。
燈矢は「痛ェなぁ」と笑った。
「お前な、いつも言ってんだろうがっ!」
「まぁな。けど抱き着きたくなったんだから仕方ねぇだろ」
「少しぐらい我慢しろや」
「少しねェ……分かった分かった」
ひらひらと手を振り、燈矢はやっと公園の方へ歩き出した。
付き合って一ヶ月経って気付いたのは燈矢が人目を一切気にしないということだ。
所構わず抱き着くしキスだってしてくる。
それが俺には理解出来ず、何度も拒否しているのに燈矢は気にせず同じことを繰り返す。
いっそ嫌がらせかと思う程だ。
「あ、公園来ちまったけど寒ぃんだっけか?」
「いや。手袋借りたし大丈夫」
「なら温かい飲み物でも買ってその辺ぶらぶらするか」
「ん」
公園に併設されたカフェに寄りテイクアウトで商品を注文する。
燈矢はブラックコーヒーを頼み、俺はカフェオレを頼んだ。
渡されたカップの温かさに救われる。
「あったけぇ」
「だな。そういや今日、泊まっていけんのか?」
「無理。釘刺されたからそろそろ帰らねェと」
燈矢と付き合ってから燈矢の家に泊まることが多くなった俺は母親に注意されるようになった。
先程のように「帰ってこい」と言われた日に帰らなかった時はしばらく外出禁止になった程だ。
逆らい続けても良いのだが、燈矢との関係を隠しておきたい俺としてはなるべく波風を立てたくない。
「残念。じゃあやっぱ今くっつくしかねェな」
燈矢は当たり前のように顔を近付けて俺の頬にキスをした。
避ける間もなくキスをされ、俺はぐいっと眉間にシワを寄せる。
「おい!」
「これぐらいいいだろ?」
「駄目だっつってんだろ!テメェ、本当に聞いてんのかよ」
不快感を露わにしても燈矢は肩を竦めるだけだ。
何度言っても学習しない。
「聞いてるって。聞いた上で無視してんだ」
「……もっとあったまって来たらテメェのこと爆破してやる」
「おー、怖ェ」
全く怖がった素振りもなく燈矢はブラックコーヒーを飲みながら歩き出した。
はぁ、と溜息をつきつつ隣を歩く。
冬の公園はもの寂しい。人も少なく植物も色褪せている。
けれどそういう雰囲気が俺は嫌いではなかった。
少し歩いてから燈矢が言った。
「ところでまだ寒ぃ?」
「いや。大分あったまった」
「良かった。やっぱりお前には俺が必要だろ」
「その為に怒らせてたとか言うんじゃねェだろうな?」
「その為に怒らせてた」
「ぶっ放してェ、本気で」
燈矢が俺を温める為にくっついてきたというのは当然嘘だ。
そんなことがなくてもくっついてくるのは知っている。
けれど結果的に身体が温まったのも事実だった。
「ククッ……いつか俺、お前に爆破されそうだな」
「いつでもしてやんよ」
「それでも恋人かぁ?」
大きく笑った燈矢は俺の肩に手を回して言った。
「けどそういう物騒なとこ、爆豪らしくて好きだぜ」
「……そうかよ」
「その照れてる顔の方がもっと好きだけどな」
「うっぜ……んっ!」
押し付けられた唇に塞がれ言葉に詰まる。
バシバシと強く身体を叩くとやっと解放された。
「テメェ……!」
「悪ぃ、悪ぃ」
身体を離した燈矢は掌の上に蒼炎を繰り出した。
そしてニィッと笑う。
「お前がやりてぇならいつでも相手してやるよ」
「ハッ!面白ぇ!」
ギラギラと闘志を燃やして燈矢を睨む。
けれど俺の口元は笑っていた。
寒さなんてもう、全く気にならなかった。
いつか必ず蒼い炎を爆破したいと思う。
──と、同時にこういう所も含めて燈矢が好きなのだと思うのだ。
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