【荼毘轟】だってバレンタインだから。
「轟!これあげる。うちのクラスの女子全員からってことで」
「ん?あぁ、バレンタインか。ありがとう」
芦戸から渡されたのはリボンが付いたプレゼント袋だった。
大きくて重みがあるそれは沢山甘い物が入っていそうだ。
「てか轟、ツラいいからチョコめっちゃ貰ってそうなんだけど。本命とかさ」
「生憎そういうのは貰ってないな。義理ならいくつか貰ったが」
「それ、本当は本命混じってんじゃないの?」
ニタァと意地悪っぽく笑う芦戸はこういう類の話が好きでよく吹っ掛けてくる。
逆に俺はあまり得意ではない。
だが否定した所で逃げられなくなるだけだ。
だから曖昧に微笑んで誤魔化した。
「だったらいいけどな」
「んー、何かあしらわれた感じがして悔しい。けどまぁいっか。あ、爆豪見っけー!」
教室に入ってきた爆豪を見つけたらしく、芦戸はそっちへ走っていった。
バレンタインデーの女子は何かと忙しそうだ。
「燈矢兄、ただいま」
学校が終わり、寮でなく燈矢兄の家に帰る。
ソファに座っていた燈矢兄はひらりと手を上げた。
「おかえり。どうした?その荷物」
両手に提げた紙袋に目がいかないわけがない。
片方には貰ったプレゼントが大量に入っている。
「今日バレンタインだから色々貰った」
「成程。モテモテってわけだ」
「全部義理だと思うけどな。で、こっちは燈矢兄にやる」
もう片方の紙袋を燈矢兄に差し出す。
それは俺が学校帰りに買ってきたチョコレートだった。
「お、マジで?焦凍気ぃ利くな。サンキュ」
「あぁ。折角だし」
燈矢兄は外見に似合わないけれど甘い物が好きだ。
それを思い出した俺は帰りがけにバレンタインフェアへ寄ったのだが、当然場違いだった。
あまり考える間もなく適当にチョコレートを選び、買って帰ることになった。
だがそれでも燈矢兄は喜んでくれた。
箱を開けて嬉しそうに口笛を吹いた。
「いいねぇ。俺の好きなもんばっかりだ」
「って、燈矢兄はミルクチョコもビターチョコもホワイトチョコも好きなんだろ」
「そう。だから全部入ってて嬉しいぜ」
「まぁ、確かに3種類とも入ってるな」
「ククッ。焦凍らしい誤魔化し方だな」
どれでも好きだと言っていたから何でも良かったのだが、折角なら全て入っている方がいいと考えたのも事実だ。
思考が読まれているようで恥ずかしくなった俺は何も言わずに燈矢兄の隣に座った。
「燈矢兄が嬉しいならそれでいい」
「勿論。何より焦凍から貰えたっていうのが嬉しいぜ」
「そうか。買ってきて良かった」
「遠慮なく食わせて貰うな」
そう言った燈矢兄は3種類のチョコレートを掴み一気に口の中に放り入れた。
「味混ざっちまったら意味なくねぇか?」
「んー?そんなことねぇよ。この食い方も美味ぇから」
「そうなのか?多分燈矢兄ぐらいしかしねぇと思うけど」
普通は1個ずつ食べるものだ。違う味ならば尚更。
ただ普通じゃないことをする方が燈矢兄らしいとも思う。
燈矢兄にとっての正常はいつだって異常で、不思議とその方が落ち着くのだ。
「焦凍もやってみりゃ分かるぜ」
「そもそも俺、甘いチョコはあんまり好きじゃない」
「まあまあ。そう言わずに食ってみろって。案外いけるかもしれねぇし。あ、てか食わせてやるよ」
え、と口にする間もなく燈矢兄は俺をグイッと引っ張った。
そして躊躇いもなく俺の唇に唇を押し付ける。
「っ!」
半開きになった口の中に舌が捩じ込まれる。
れろりと口の中を舐められ、口内に甘さが広がった。
3種類のチョコレートが混ざった味。
それよりも行為に驚き──どんな味かなど考えられなかったけれど。
「こんな味だぜ」
「……っ」
真っ赤になった俺の顔を見て燈矢兄はニイッと笑ってチョコレートを指さした。
「お前のこれ、本命なんだろ?」
「……気付いてたのか」
「まぁな。少なくとも兄貴に向ける顔はしてなかったな」
ククッと笑い俺の頭を撫でる。
「そう言われると恥ずかしい」
「照れんなよ。俺は嬉しいぜ?」
燈矢兄に恋心を抱いたのはいつからだっただろう。
そんなに昔のことではない。けれど気付いた時にはもう落ちていた。
ただ、その恋を叶えるつもりはなかった。
誰にも言わなければ伝わることはないと思っていたから。
けれど俺の考えは浅はかだったらしい。
燈矢兄は思っていた以上に俺のことを見ていたし、俺は思っていた以上に感情を隠せていなかった。
「燈矢兄が嫌じゃねぇなら俺はこのまま気持ちを変えない」
「嫌っつっても変えられないんじゃねぇの?」
「うっ……」
「ククッ……てか俺がディープキスした時点で気付けよな」
「え?……あ、それって」
3種類のチョコレートを掴んだ燈矢兄はポイッと口の中に入れた。
それからチョコレートを口の中で転がして笑った。
「だって今日はバレンタインだしな。ちょうどいいんじゃねぇの?」
あまりの急展開にこくりと頷くことしか出来なかった。
つまり俺の恋は唐突に叶った──らしい。
ずっと燈矢兄に振り回されてきたから、恋人になっても変わらず振り回されるのだろう。
悔しいけどそれを嬉しいと思ってしまうから。
「これからも宜しくな、焦凍」
「……あぁ」
惚れた方が負け、なんてよくある言葉を思い出してしまった。
「ん?あぁ、バレンタインか。ありがとう」
芦戸から渡されたのはリボンが付いたプレゼント袋だった。
大きくて重みがあるそれは沢山甘い物が入っていそうだ。
「てか轟、ツラいいからチョコめっちゃ貰ってそうなんだけど。本命とかさ」
「生憎そういうのは貰ってないな。義理ならいくつか貰ったが」
「それ、本当は本命混じってんじゃないの?」
ニタァと意地悪っぽく笑う芦戸はこういう類の話が好きでよく吹っ掛けてくる。
逆に俺はあまり得意ではない。
だが否定した所で逃げられなくなるだけだ。
だから曖昧に微笑んで誤魔化した。
「だったらいいけどな」
「んー、何かあしらわれた感じがして悔しい。けどまぁいっか。あ、爆豪見っけー!」
教室に入ってきた爆豪を見つけたらしく、芦戸はそっちへ走っていった。
バレンタインデーの女子は何かと忙しそうだ。
「燈矢兄、ただいま」
学校が終わり、寮でなく燈矢兄の家に帰る。
ソファに座っていた燈矢兄はひらりと手を上げた。
「おかえり。どうした?その荷物」
両手に提げた紙袋に目がいかないわけがない。
片方には貰ったプレゼントが大量に入っている。
「今日バレンタインだから色々貰った」
「成程。モテモテってわけだ」
「全部義理だと思うけどな。で、こっちは燈矢兄にやる」
もう片方の紙袋を燈矢兄に差し出す。
それは俺が学校帰りに買ってきたチョコレートだった。
「お、マジで?焦凍気ぃ利くな。サンキュ」
「あぁ。折角だし」
燈矢兄は外見に似合わないけれど甘い物が好きだ。
それを思い出した俺は帰りがけにバレンタインフェアへ寄ったのだが、当然場違いだった。
あまり考える間もなく適当にチョコレートを選び、買って帰ることになった。
だがそれでも燈矢兄は喜んでくれた。
箱を開けて嬉しそうに口笛を吹いた。
「いいねぇ。俺の好きなもんばっかりだ」
「って、燈矢兄はミルクチョコもビターチョコもホワイトチョコも好きなんだろ」
「そう。だから全部入ってて嬉しいぜ」
「まぁ、確かに3種類とも入ってるな」
「ククッ。焦凍らしい誤魔化し方だな」
どれでも好きだと言っていたから何でも良かったのだが、折角なら全て入っている方がいいと考えたのも事実だ。
思考が読まれているようで恥ずかしくなった俺は何も言わずに燈矢兄の隣に座った。
「燈矢兄が嬉しいならそれでいい」
「勿論。何より焦凍から貰えたっていうのが嬉しいぜ」
「そうか。買ってきて良かった」
「遠慮なく食わせて貰うな」
そう言った燈矢兄は3種類のチョコレートを掴み一気に口の中に放り入れた。
「味混ざっちまったら意味なくねぇか?」
「んー?そんなことねぇよ。この食い方も美味ぇから」
「そうなのか?多分燈矢兄ぐらいしかしねぇと思うけど」
普通は1個ずつ食べるものだ。違う味ならば尚更。
ただ普通じゃないことをする方が燈矢兄らしいとも思う。
燈矢兄にとっての正常はいつだって異常で、不思議とその方が落ち着くのだ。
「焦凍もやってみりゃ分かるぜ」
「そもそも俺、甘いチョコはあんまり好きじゃない」
「まあまあ。そう言わずに食ってみろって。案外いけるかもしれねぇし。あ、てか食わせてやるよ」
え、と口にする間もなく燈矢兄は俺をグイッと引っ張った。
そして躊躇いもなく俺の唇に唇を押し付ける。
「っ!」
半開きになった口の中に舌が捩じ込まれる。
れろりと口の中を舐められ、口内に甘さが広がった。
3種類のチョコレートが混ざった味。
それよりも行為に驚き──どんな味かなど考えられなかったけれど。
「こんな味だぜ」
「……っ」
真っ赤になった俺の顔を見て燈矢兄はニイッと笑ってチョコレートを指さした。
「お前のこれ、本命なんだろ?」
「……気付いてたのか」
「まぁな。少なくとも兄貴に向ける顔はしてなかったな」
ククッと笑い俺の頭を撫でる。
「そう言われると恥ずかしい」
「照れんなよ。俺は嬉しいぜ?」
燈矢兄に恋心を抱いたのはいつからだっただろう。
そんなに昔のことではない。けれど気付いた時にはもう落ちていた。
ただ、その恋を叶えるつもりはなかった。
誰にも言わなければ伝わることはないと思っていたから。
けれど俺の考えは浅はかだったらしい。
燈矢兄は思っていた以上に俺のことを見ていたし、俺は思っていた以上に感情を隠せていなかった。
「燈矢兄が嫌じゃねぇなら俺はこのまま気持ちを変えない」
「嫌っつっても変えられないんじゃねぇの?」
「うっ……」
「ククッ……てか俺がディープキスした時点で気付けよな」
「え?……あ、それって」
3種類のチョコレートを掴んだ燈矢兄はポイッと口の中に入れた。
それからチョコレートを口の中で転がして笑った。
「だって今日はバレンタインだしな。ちょうどいいんじゃねぇの?」
あまりの急展開にこくりと頷くことしか出来なかった。
つまり俺の恋は唐突に叶った──らしい。
ずっと燈矢兄に振り回されてきたから、恋人になっても変わらず振り回されるのだろう。
悔しいけどそれを嬉しいと思ってしまうから。
「これからも宜しくな、焦凍」
「……あぁ」
惚れた方が負け、なんてよくある言葉を思い出してしまった。
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