【切爆】独占欲とか嫉妬とか。

ドクセンヨクとかシットとか──自分には無縁のものだと思っていた。
けれど今、抱いている感情はまさにその類のものなのだろう。
(はあ……だっせぇの)
爆豪と付き合ってからどんどんダサくなっていく自分に嫌気がさす。
このまま教室にいても気分が晴れそうにない。
昼飯を食べ終えた後、上鳴に一言伝えて屋上へと向かった。
1月下旬の屋上は極寒にも等しい。
マフラーも上着も身に着けて来なかったのは失敗だったかもしれない。
ただ頭を冷やすにはちょうどいい気がする。
フェンスに頬杖をつき、空を眺める。
(このままだと自分のことすげぇ嫌いになりそうだ)
爆豪と付き合い始めたのは二週間前だ。
俺の告白に対し、視線を外して照れくさそうに頷いてくれた爆豪にむしろ俺の方が驚いた。
「告白してきたくせに何でお前が驚いてんだよ」
そう言って大きく笑った爆豪を見てますます好きになったのだが、今思えばそれが始まりだった。
些細なことでどんどん好きになっていくようになったのだ。
それから毎日「好き」が募っていっている。
と、同時に独占欲や嫉妬という感情が芽生えていった。
それがすごく──嫌だった。
「はあ……」
「溜息なんて珍しいじゃねぇか」
「爆豪!?」
振り返るとマフラーに顔を埋めた爆豪が立っていた。
「ほらよ」
ぐいっと押し付けられたのは俺のマフラーだった。
わざわざ教室から持ってきてくれたらしい。
受け取って早速首に巻く。
「悪い、ありがとな!てかよくここにいるってわかったな」
「まぁな。教室出て行くの見えたから。何となくここ数日のお前、変だったし」
「……そっか。案外俺のこと見てくれてんだな」
「他の奴よりは見てるかもな。つかテメェがわかりやすいってのもある」
「あー、成程。そうかもな」
単純な俺は顔にも態度にも出やすい。
もしかしたら爆豪は俺が何を考えているかまで把握しているかもしれない。
基本的に他人に興味がない爆豪だが、頭が良くて機転が利く。
だから俺の気持ちなど簡単に理解してしまう気がするのだ。
チラッと目を向けると隣に立った爆豪はジロッと睨んできた。
「お前の考えてることは大体わかってる」
「……そっか。爆豪に隠しごとは出来なさそうだな」
「出来るわけねェだろ。で?言いたいことあんなら言えや」
出来れば言いたくないことなのだけれど、そんなことを言っても爆豪は許してくれないだろう。
言いたくない俺の気持ちをわかった上で聞いてくるのだから爆豪らしいと言わざるを得ない。
「……お前と付き合ってさ、俺前よりダサくなった。すげぇ嫉妬すんの」
「ふぅん」
「今までそんなこと何も気になんなかったのに爆豪が誰かと絡んでんの見てるとモヤつく」
「そもそも俺、あんまり人と絡まねェけど」
「知ってる。だから余計そう思うのかもな」
ニシシと笑ってみせたが上手く笑えていたかわからない。
──多分、笑えていなかった。
だから額にデコピンが降ってきた。
「いってぇ!」
「下手くそな笑い方。笑えねェ時に笑うんじゃねェよ」
爆豪の言い分は最もだ。正論過ぎて何も言い返せない。
「嫉妬って別に悪ィことでもねェだろ。俺だってする時あんし」
「それって……強さの話か?」
「まぁな。大体同じようなモンだろ。だから気持ちは何となくわかる」
爆豪はマフラー越しに小声で言った。
「……それに恋ってそういうもんじゃねぇの?」
「あー、そっか。恋ってモンが初めてだからわかんなかったのかもしんねぇ。そういうもんって思えば納得かも」
だってこんなに好きになったのは初めてだ。
付き合いたいなんて思ったのは爆豪しかいない。
だから初めての感情に戸惑って、困惑して、突き動かされても仕方がないのかもしれない。
「……よし、ありがとな。本人に聞いてもらうとかマジだせぇなって思うけど、爆豪にそう言って貰えたのがめちゃくちゃ嬉しい」
「別に。ま、お前が元気になったんならいいけど」
「へへっ、マジでありがとな!」
ガシッと爆豪の肩を抱く。
寒い空気の中、触れ合った箇所だけが温かくて。
「俺、多分これからも独占欲強ぇし嫉妬するしお前に迷惑掛けるかもしんねぇ」
「……そうかよ」
「けどそんだけお前のこと好きってことだからさ!許してくれ」
「仕方ねぇから許してやんよ」
「あ、爆豪が嫉妬してくれてもいいんだぜ?」
「ンなもんしねぇわ」
ククッと笑った爆豪があまりにも可愛くて。
勢いで頬にキスしてしまった。
「っ!テメェ!」
ガンッと照れた爆豪に頭を叩かれる。
けれど俺は笑顔になった。
──久しぶりにちゃんと笑えた気がした。
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