【荼毘トゥワトガ】Let's hang out!!
「荼毘くん、仁くん!こっちです!」
ぴょんぴょんと跳ねながら2人に向かって手を振る。
荼毘くんは怠そうに、仁くんはスキップをしながら私の元へ来てくれた。
「トガちゃん!お待たせ!待たせてねぇよ!」
「急に呼び出してきやがって。何の用だ?」
「私と遊びましょう!」
ニッコリ笑って言う私に荼毘くんは案の定眉間に皺を寄せた。
「はぁ?何でだよ」
「だっていつもあんな暗いバーにいるんですよ?たまにはパーッと遊びたいじゃないですか」
「流石だな、トガちゃん!」
乗り気になった仁くんは荼毘くんの腕を引っ張った。
「よし、行こうぜ!来んなよ!」
「チッ……面倒くせぇな」
「3人で遊んだら絶対楽しいですって」
「お前ら自分の立場分かってんのか?特にトガ。指名手配犯なんだろ?面ぁ割れてんじゃねぇのか?」
「大丈夫ですよ!案外人混みに紛れたらバレないものなので」
「流石トガちゃんだな!天才だ!可愛い!」
「……何でトガ相手の時はどっちも褒め言葉なんだよ」
呆れつつも荼毘くんは仁くんに引っ張られ着いてきてくれた。
私は仁くんの手を取って歩き出した。
都会のど真ん中──私たちがヴィラン連合だということに気付いている者はいない。
だから今日は「普通」に紛れ込んで全力で遊ぶのだ。
「ふふっ。こうやってお友達とカフェ行くのは初めてなので嬉しいです」
最初に立ち寄ったのはカフェだった。
生クリームが沢山載ったフラペチーノを注文し、席に座ってスマホで撮影する。
「普通」の女子高生が「当たり前」にやっていることを私は初めてやってみた。
アプリを使って加工までしてみる。
ハートやキラキラを散らすとますます可愛くなった。
出来栄えににんまり笑っていると荼毘くんが「友達ぃ?」と毒づいた。
「あれ?お友達じゃないんですか?」
「友達でも仲間でもねぇだろ、別に。ただ同じ目的なだけだ」
「それを仲間って言うんじゃねぇのか!言わねぇよ!」
「仲間は友達でいいですよね!だからやっぱり荼毘くんも仁くんもお友達です」
「やれやれ……勝手にしてくれ」
肩を竦めた荼毘くんは怠そうに座ってアイスコーヒーを飲んだ。
仁くんは私と同じフラペチーノを注文し、生クリームをスプーンで掬って食べていた。
「甘いな!甘くねぇな!」
「甘くて美味しいですよねぇ。生クリーム追加すれば良かったです」
「そんなこと出来るのか!出来ねぇよ!」
「出来るって後から知りました。残念です」
「なら今度そうすりゃいいだろ。二度と来れねぇわけじゃねぇんだ」
そう言ってくれた荼毘くんに目を向けて笑顔を見せる。
「その時はまた2人とも付き合ってくださいね!」
「いいぜ!嫌だ!」
「俺も嫌だ」
「仁くんの嫌だはいいってことですから。同意した荼毘くんもいいってことで」
「……ったく。お前段々いい性格になってきやがったなぁ?」
「ふふっ、褒め言葉ありがとうございます」
両頬に手を宛てて頬を赤らめる。
荼毘くんの皮肉は私には効かない。
付き合う中でひらりと躱す術を身につけたから。
「トガちゃん、良かったな!良くねぇよ!」
「はい、良かったです。さて、次は何処に行きましょう?」
フラペチーノを飲みながらスマホをいじり周辺の地図を眺める。
都会には楽しそうな場所が沢山ある。
「好きに決めろよ」
「2人は行きたいとこないんですか?」
「トガちゃんに付いて行くぜ!行かねぇよ!」
「えー、どうしよう。悩みますねぇ」
可愛いアクセサリーも洋服も買いたい。
バッグだって靴だって欲しい。
けれど自由が効かない私には貰えるお金が限られていた。
それならば欲しいものを買うよりも、もっと。
「じゃあゲームセンターに行きましょう!」
「賛成っ!反対っ!」
「決まったんなら行くぞ」
「わっ、待ってください!」
ガタッと立ち上がった荼毘くんを追い掛けるように立ち上がる。
フラペチーノを飲み干し、ゴミ箱に入れて店を出る。
ただそれだけのことが、きっと誰にとっても「普通」のことが──私には嬉しかった。
「着いたな!着いてねぇ!」
ゲームセンターはカフェから少し歩いた場所にあった。
終始テンションが高い仁くんは更にテンションが上がったようだった。
「楽しそうですね、仁くん」
「トガちゃんがいるから楽しいぜ!」
「ふふっ、私も楽しいです。早速遊びましょう」
大きくて広い店内をキョロキョロと見る。
ゲームセンターは5階建てらしく、1階にはUFOキャッチャーが並んでいた。
可愛いマスコットやぬいぐるみ、お菓子など色んな物が景品になっている。
「わぁ、これ可愛いですねぇ」
私が目を付けたのは絆創膏と包帯が巻かれたうさぎのぬいぐるみだ。
傷や血の表現までしてあり、とても可愛かった。
「イカレ女が好きそうなやつだな」
「失礼ですよ、荼毘くん。きっと私以外にも好きな人いるはずですから」
「そういうのは大体お前と同類だろ。だから別にお前だけがイカレてるわけじゃねぇ」
「……もしかして慰めてくれてます?」
「んなわけねぇだろ」
荼毘くんはそう言ってスタスタと先に行ってしまった。
否定していたけれど、私の悩みや葛藤を理解した上で言ってくれた言葉だと思うのだ。
荼毘くんにはそういう所がある。
話しているとたまにこうして「お兄ちゃん」っぽさを感じる。
もしかしたら私と同い年ぐらいの弟か妹がいるのかもしれない。
何も語ってくれないから分からないけれど、あながち外れていない気がしている。
「トガちゃん!どうした?」
私の隣に来た仁くんは首を傾げた。
物憂げな表情をやめ、笑顔を向ける。
「ううん。何でもないです。このぬいぐるみ欲しいなって思ったんですけど仁くん、取れますか?」
「任せろ!無理だな!」
仁くんは早速お金を投入しUFOキャッチャーを操作し始めた。
ブツブツと呟く言葉を聞く限り、キャッチャーの動きを計算しているようだ。
何度か失敗しつつも仁くんはぬいぐるみを出口に近付けていく。
「仁くんすごいですね!もう少しです!」
「トガちゃんの為ならな!」
投入金額が1000円になった頃、遂にぬいぐるみがキャッチャーにピッタリハマり出口へと運ばれてきた。
「わぁ!嘘!?すごいです!」
ころりと落ちてきたぬいぐるみを取り出した仁くんは嬉しそうに私に差し出した。
「やったぜ!勿論あげるからな!あげねぇよ!」
「ふふっ!ありがとうございます。大切にしますね」
少し大きめのぬいぐるみを抱き締める。
傷だらけで笑顔を作っているうさぎのキャラクターは何となく自分に──昔の自分に似ているような気がした。
「普通」のフリをして大勢の中に混じっていたあの頃の自分に。
「……」
陰鬱なことを考えそうになって首を振る。
今はもう関係ない。あの頃の自分は捨てたのだから。
「仁くん、次行きましょうか」
「あぁ!荼毘の奴、何処行ったんだろうな。探しに行こうぜ、トガちゃん!」
こういう時、仁くんの明るさに助けられる。
嫌なことは忘れていいと思わせてくれるから。
2人で店内を歩き、荼毘くんを探した。
荼毘くんは店の奥を宛もなくふらふらと見ていたようだった。
「見つけた!見つからねぇ!」
「荼毘くん見てください、これ。仁くんに取って貰ったんです!」
「取れたのか。トゥワイス、意外な特技があったんだな」
「トガちゃんの為だからな!」
胸を張る仁くんは本当に私の為に頑張ってくれたのだろう。
こういうことはやったことがなさそうだ。
私も仁くんも荼毘くんも「普通」とは程遠いから。
「良かったじゃねぇか。金掛けて何も取れねぇんじゃ意味ねぇしな」
「はい。とても可愛くて気に入っちゃいました」
「そいつ、そこにもあったぜ」
荼毘くんが指さした先には小さなUFOキャッチャーが並んでいた。
その中のひとつに同じうさぎのキャラクターのマスコットが詰め込まれている。
「わぁ!これも可愛いですねぇ。やってみようかな」
「トガちゃんなら絶対取れるぜ!」
「お前が逆のこと言わねぇと調子狂うな」
チャリンとお金を投入し、キャッチャーを動かす。
「あれ?」
ちゃんと狙ったつもりだったけれどキャッチャーはマスコットを掴んでくれなかった。
「おかしいですねぇ。意外と難しい」
「大丈夫だ!トガちゃん!もう1回!」
「はい!やってみます」
仁くんに励まされ、もう1回チャレンジしてみる。
先程よりは上手くいったがやはりマスコットは取れなかった。
「はぁ……向いてないみたいです」
「こんなもんに向いてるとか向いてねぇとかあんのかよ」
そう言って荼毘くんはお金を投入した。
「さっきの人形より小せぇんだから何とかなんだろ」
ガチャガチャとキャッチャーを動かす。
見た感じでは適当に動かしていたはずなのに何故かしっかりマスコットを掴んでいる。
出口に運ばれてきたうさぎのマスコットを荼毘くんは「ほらよ」と私に押し付けた。
「わぁ!すごいです!仁くんも荼毘くんも上手いんですねぇ」
「お前が下手なだけだろ」
「トガちゃんの為だから頑張れただけだぜ!」
「ふふっ、本当にありがとうございます!」
早速カバンにマスコットをつけ、ぬいぐるみを抱き締めた私はニッコリと笑顔を見せる。
そんな私に2人は笑顔を返してくれた。
欲しい物を買いに行かなくて良かったと思う。
ゲームセンターを選んで本当に良かった。
こうして2人に貰った物はもっともっと大切な物になったから。
「そろそろアジト戻んぞ」
荼毘くんに言われ私は「はぁい」と元気良く返事をする。
「トガちゃん、満足したのか?」
「はい、とっても!2人のお陰です」
「そっか!役に立てたなら良かった!良くねぇよ!」
「あ、でも最後にちょっといいですか?」
突然足を止めた私に倣って2人も足を止める。
「3人で写真撮りたいです」
返事を聞く前にスマホを取り出し、インカメで3人を映す。
「荼毘くんもちゃんと笑ってくださいね!」
「……笑うまで撮り直しさせられそうだからな」
カシャとシャッターを切り、画面に映った3ショットを見る。
そこには三者三様の笑い方をする私たちがしっかり収められていた。
「いい写真になりました。ありがとうございます」
「最高だな!最低だな!」
「まァ、悪くねぇか」
「じゃあ、帰りましょうか!」
そう言って私は2人の間に入り、勝手に腕を絡めた。
大きな笑顔を見せる私に1人は笑顔を見せ、1人は溜息を吐いた。
それでも突き放されることはなくて──やっぱり友達だと思いたくなる。
だって一緒にいるとこんなに楽しいのだ。
ずっと2人の傍にいたい。
そんな些細な夢すら叶わないかもしれない私だけれど。
(少しでも長く2人と一緒にいられますように)
先程撮った3ショットは絶対にスマホの待受画面にしようと決めて──アジトまでの道を3人で騒ぎながら歩いたのだった。
ぴょんぴょんと跳ねながら2人に向かって手を振る。
荼毘くんは怠そうに、仁くんはスキップをしながら私の元へ来てくれた。
「トガちゃん!お待たせ!待たせてねぇよ!」
「急に呼び出してきやがって。何の用だ?」
「私と遊びましょう!」
ニッコリ笑って言う私に荼毘くんは案の定眉間に皺を寄せた。
「はぁ?何でだよ」
「だっていつもあんな暗いバーにいるんですよ?たまにはパーッと遊びたいじゃないですか」
「流石だな、トガちゃん!」
乗り気になった仁くんは荼毘くんの腕を引っ張った。
「よし、行こうぜ!来んなよ!」
「チッ……面倒くせぇな」
「3人で遊んだら絶対楽しいですって」
「お前ら自分の立場分かってんのか?特にトガ。指名手配犯なんだろ?面ぁ割れてんじゃねぇのか?」
「大丈夫ですよ!案外人混みに紛れたらバレないものなので」
「流石トガちゃんだな!天才だ!可愛い!」
「……何でトガ相手の時はどっちも褒め言葉なんだよ」
呆れつつも荼毘くんは仁くんに引っ張られ着いてきてくれた。
私は仁くんの手を取って歩き出した。
都会のど真ん中──私たちがヴィラン連合だということに気付いている者はいない。
だから今日は「普通」に紛れ込んで全力で遊ぶのだ。
「ふふっ。こうやってお友達とカフェ行くのは初めてなので嬉しいです」
最初に立ち寄ったのはカフェだった。
生クリームが沢山載ったフラペチーノを注文し、席に座ってスマホで撮影する。
「普通」の女子高生が「当たり前」にやっていることを私は初めてやってみた。
アプリを使って加工までしてみる。
ハートやキラキラを散らすとますます可愛くなった。
出来栄えににんまり笑っていると荼毘くんが「友達ぃ?」と毒づいた。
「あれ?お友達じゃないんですか?」
「友達でも仲間でもねぇだろ、別に。ただ同じ目的なだけだ」
「それを仲間って言うんじゃねぇのか!言わねぇよ!」
「仲間は友達でいいですよね!だからやっぱり荼毘くんも仁くんもお友達です」
「やれやれ……勝手にしてくれ」
肩を竦めた荼毘くんは怠そうに座ってアイスコーヒーを飲んだ。
仁くんは私と同じフラペチーノを注文し、生クリームをスプーンで掬って食べていた。
「甘いな!甘くねぇな!」
「甘くて美味しいですよねぇ。生クリーム追加すれば良かったです」
「そんなこと出来るのか!出来ねぇよ!」
「出来るって後から知りました。残念です」
「なら今度そうすりゃいいだろ。二度と来れねぇわけじゃねぇんだ」
そう言ってくれた荼毘くんに目を向けて笑顔を見せる。
「その時はまた2人とも付き合ってくださいね!」
「いいぜ!嫌だ!」
「俺も嫌だ」
「仁くんの嫌だはいいってことですから。同意した荼毘くんもいいってことで」
「……ったく。お前段々いい性格になってきやがったなぁ?」
「ふふっ、褒め言葉ありがとうございます」
両頬に手を宛てて頬を赤らめる。
荼毘くんの皮肉は私には効かない。
付き合う中でひらりと躱す術を身につけたから。
「トガちゃん、良かったな!良くねぇよ!」
「はい、良かったです。さて、次は何処に行きましょう?」
フラペチーノを飲みながらスマホをいじり周辺の地図を眺める。
都会には楽しそうな場所が沢山ある。
「好きに決めろよ」
「2人は行きたいとこないんですか?」
「トガちゃんに付いて行くぜ!行かねぇよ!」
「えー、どうしよう。悩みますねぇ」
可愛いアクセサリーも洋服も買いたい。
バッグだって靴だって欲しい。
けれど自由が効かない私には貰えるお金が限られていた。
それならば欲しいものを買うよりも、もっと。
「じゃあゲームセンターに行きましょう!」
「賛成っ!反対っ!」
「決まったんなら行くぞ」
「わっ、待ってください!」
ガタッと立ち上がった荼毘くんを追い掛けるように立ち上がる。
フラペチーノを飲み干し、ゴミ箱に入れて店を出る。
ただそれだけのことが、きっと誰にとっても「普通」のことが──私には嬉しかった。
「着いたな!着いてねぇ!」
ゲームセンターはカフェから少し歩いた場所にあった。
終始テンションが高い仁くんは更にテンションが上がったようだった。
「楽しそうですね、仁くん」
「トガちゃんがいるから楽しいぜ!」
「ふふっ、私も楽しいです。早速遊びましょう」
大きくて広い店内をキョロキョロと見る。
ゲームセンターは5階建てらしく、1階にはUFOキャッチャーが並んでいた。
可愛いマスコットやぬいぐるみ、お菓子など色んな物が景品になっている。
「わぁ、これ可愛いですねぇ」
私が目を付けたのは絆創膏と包帯が巻かれたうさぎのぬいぐるみだ。
傷や血の表現までしてあり、とても可愛かった。
「イカレ女が好きそうなやつだな」
「失礼ですよ、荼毘くん。きっと私以外にも好きな人いるはずですから」
「そういうのは大体お前と同類だろ。だから別にお前だけがイカレてるわけじゃねぇ」
「……もしかして慰めてくれてます?」
「んなわけねぇだろ」
荼毘くんはそう言ってスタスタと先に行ってしまった。
否定していたけれど、私の悩みや葛藤を理解した上で言ってくれた言葉だと思うのだ。
荼毘くんにはそういう所がある。
話しているとたまにこうして「お兄ちゃん」っぽさを感じる。
もしかしたら私と同い年ぐらいの弟か妹がいるのかもしれない。
何も語ってくれないから分からないけれど、あながち外れていない気がしている。
「トガちゃん!どうした?」
私の隣に来た仁くんは首を傾げた。
物憂げな表情をやめ、笑顔を向ける。
「ううん。何でもないです。このぬいぐるみ欲しいなって思ったんですけど仁くん、取れますか?」
「任せろ!無理だな!」
仁くんは早速お金を投入しUFOキャッチャーを操作し始めた。
ブツブツと呟く言葉を聞く限り、キャッチャーの動きを計算しているようだ。
何度か失敗しつつも仁くんはぬいぐるみを出口に近付けていく。
「仁くんすごいですね!もう少しです!」
「トガちゃんの為ならな!」
投入金額が1000円になった頃、遂にぬいぐるみがキャッチャーにピッタリハマり出口へと運ばれてきた。
「わぁ!嘘!?すごいです!」
ころりと落ちてきたぬいぐるみを取り出した仁くんは嬉しそうに私に差し出した。
「やったぜ!勿論あげるからな!あげねぇよ!」
「ふふっ!ありがとうございます。大切にしますね」
少し大きめのぬいぐるみを抱き締める。
傷だらけで笑顔を作っているうさぎのキャラクターは何となく自分に──昔の自分に似ているような気がした。
「普通」のフリをして大勢の中に混じっていたあの頃の自分に。
「……」
陰鬱なことを考えそうになって首を振る。
今はもう関係ない。あの頃の自分は捨てたのだから。
「仁くん、次行きましょうか」
「あぁ!荼毘の奴、何処行ったんだろうな。探しに行こうぜ、トガちゃん!」
こういう時、仁くんの明るさに助けられる。
嫌なことは忘れていいと思わせてくれるから。
2人で店内を歩き、荼毘くんを探した。
荼毘くんは店の奥を宛もなくふらふらと見ていたようだった。
「見つけた!見つからねぇ!」
「荼毘くん見てください、これ。仁くんに取って貰ったんです!」
「取れたのか。トゥワイス、意外な特技があったんだな」
「トガちゃんの為だからな!」
胸を張る仁くんは本当に私の為に頑張ってくれたのだろう。
こういうことはやったことがなさそうだ。
私も仁くんも荼毘くんも「普通」とは程遠いから。
「良かったじゃねぇか。金掛けて何も取れねぇんじゃ意味ねぇしな」
「はい。とても可愛くて気に入っちゃいました」
「そいつ、そこにもあったぜ」
荼毘くんが指さした先には小さなUFOキャッチャーが並んでいた。
その中のひとつに同じうさぎのキャラクターのマスコットが詰め込まれている。
「わぁ!これも可愛いですねぇ。やってみようかな」
「トガちゃんなら絶対取れるぜ!」
「お前が逆のこと言わねぇと調子狂うな」
チャリンとお金を投入し、キャッチャーを動かす。
「あれ?」
ちゃんと狙ったつもりだったけれどキャッチャーはマスコットを掴んでくれなかった。
「おかしいですねぇ。意外と難しい」
「大丈夫だ!トガちゃん!もう1回!」
「はい!やってみます」
仁くんに励まされ、もう1回チャレンジしてみる。
先程よりは上手くいったがやはりマスコットは取れなかった。
「はぁ……向いてないみたいです」
「こんなもんに向いてるとか向いてねぇとかあんのかよ」
そう言って荼毘くんはお金を投入した。
「さっきの人形より小せぇんだから何とかなんだろ」
ガチャガチャとキャッチャーを動かす。
見た感じでは適当に動かしていたはずなのに何故かしっかりマスコットを掴んでいる。
出口に運ばれてきたうさぎのマスコットを荼毘くんは「ほらよ」と私に押し付けた。
「わぁ!すごいです!仁くんも荼毘くんも上手いんですねぇ」
「お前が下手なだけだろ」
「トガちゃんの為だから頑張れただけだぜ!」
「ふふっ、本当にありがとうございます!」
早速カバンにマスコットをつけ、ぬいぐるみを抱き締めた私はニッコリと笑顔を見せる。
そんな私に2人は笑顔を返してくれた。
欲しい物を買いに行かなくて良かったと思う。
ゲームセンターを選んで本当に良かった。
こうして2人に貰った物はもっともっと大切な物になったから。
「そろそろアジト戻んぞ」
荼毘くんに言われ私は「はぁい」と元気良く返事をする。
「トガちゃん、満足したのか?」
「はい、とっても!2人のお陰です」
「そっか!役に立てたなら良かった!良くねぇよ!」
「あ、でも最後にちょっといいですか?」
突然足を止めた私に倣って2人も足を止める。
「3人で写真撮りたいです」
返事を聞く前にスマホを取り出し、インカメで3人を映す。
「荼毘くんもちゃんと笑ってくださいね!」
「……笑うまで撮り直しさせられそうだからな」
カシャとシャッターを切り、画面に映った3ショットを見る。
そこには三者三様の笑い方をする私たちがしっかり収められていた。
「いい写真になりました。ありがとうございます」
「最高だな!最低だな!」
「まァ、悪くねぇか」
「じゃあ、帰りましょうか!」
そう言って私は2人の間に入り、勝手に腕を絡めた。
大きな笑顔を見せる私に1人は笑顔を見せ、1人は溜息を吐いた。
それでも突き放されることはなくて──やっぱり友達だと思いたくなる。
だって一緒にいるとこんなに楽しいのだ。
ずっと2人の傍にいたい。
そんな些細な夢すら叶わないかもしれない私だけれど。
(少しでも長く2人と一緒にいられますように)
先程撮った3ショットは絶対にスマホの待受画面にしようと決めて──アジトまでの道を3人で騒ぎながら歩いたのだった。
1/1ページ