【切芦】初恋BIRTHDAY.

「あー、楽しかった!」
寮でA組に誕生日パーティを開いてもらい、2時間程騒いでから沢山のプレゼントを抱えて部屋に戻った。
今までも誕生日パーティを開いてもらったことはあったが間違いなく今年が一番楽しかった。
A組メンバーとは毎日飽きるほど一緒にいるはずなのに全く飽きない。
ノリが良くて楽しくて、けれど「ヒーロー」に対しては全員真面目で。
そんな所が大好きだった。
今日も軽くストレッチでもしてから休憩しようと身体を動かし始めた時、ドアがノックされた。
遊びに来る予定はなかったが十中八九A組の誰かだろう。
上鳴か瀬呂辺りだろうと思いながらドアを開けると「よっ!」と笑顔を浮かべた芦戸が立っていた。
「ビックリした。芦戸だとは思わなかった」
「マジ?ごめんごめん。誰かと約束してたとか?」
「いや、全然。とりあえず入れよ」
「ありがと。お邪魔しまーす」
芦戸が俺の部屋に遊びに来るのは珍しいことではない。
元々仲は良い方で──そして誰にも言っていないけれど1週間前から「恋人」という関係に変わっていた。
告白をしたのは俺の方だった。
中学時代に抱いていた憧れの気持ちはいつしか恋心に変わっていて、先週2人きりになった時に思わず口から溢れていた。
「好きだから付き合って欲しい」というシンプルな一言に芦戸は笑顔で頷いてくれた。
その後に「切島が私のこと好きっていうのは有名だったからねー」と言われたのは恥ずかしかったけれど。
自分では無意識のつもりだったが、どうやら態度や表情に出ていたらしい。
芦戸自身は自覚がなかったようで「そうかなぁ?」と繰り返していたとか。
知らない所で自分の話がされているとは思わなかった。
恋話が大好きなうちのクラスの女子らしいとも思う。
「今日、どうだった?」
モコモコのルームウェアを着た芦戸はベッドの端に座って言った。
髪も肌もピンク色の芦戸はルームウェアもピンク色でとても似合っていた。
制服でもジャージでもヒーローコスチュームでも可愛いけれど、ピンク色のルームウェアは更に可愛いと思う。
「最高に楽しかったぜ。ありがとな!」
「良かった!皆で盛り上がること沢山考えたからねー。切島はいつも盛り上げてくれる側じゃん?だから絶対もっと盛り上げてやろうぜって」
「うちのメンツなら真剣に考えてくれそうだ。だからあんなに楽しかったんだな」
「そんだけ愛されてるってことだよねぇ」
キシシと笑う芦戸の隣に座ると芦戸は「そだ!」とポケットから何かを取り出した。
「はい、これ。誕生日プレゼント」
「え?さっきくれてたじゃん」
「あれは建前っていうか皆に合わせたやつだったんだよね」
「マジ?2個も貰えるとかすげぇ嬉しい。開けさせてもらうな」
受け取ったプレゼントの包装紙を開け、高そうな箱を開ける。
中にはシルバーのブレスレットが入っていた。
「うおっ!かっけぇ!」
「切島、そういうの持ってなさそうだなって思って。私服結構派手色多いしシルバーならどれにでも合うからさ」
今まで見ていてくれたことも、そこまで考えてくれたことも嬉しかった。
告白に頷いてくれたけれど芦戸がどれほど俺のことを好きでいてくれるか分からなかったから。
けれどプレゼントひとつを真剣に考えてくれただけで十分だ。
それだけで愛を感じる、ものすごく。
「ファッション系疎いから助かる。ありがとな!私服ん時絶対ぇつけるわ」
「あとシルバーの所々に赤色のラインが入ってるのも切島っぽくて気に入ったの。だから見て見て!」
ルームウェアの袖を捲った芦戸の手首には同じブレスレットが光っていた。
「マジ!?お揃いじゃん」
「そー!私もあんまりシルバーアクセ使ったことなかったんだけど気に入ったから2つ買っちゃえって思ってさ」
「こういうのめちゃくちゃ憧れてたから嬉しい」
今まであまり恋愛に興味がなかった。
中学時代にも彼女持ちの友達はいたけれど、俺はそれよりも友達と遊んでいたいと思うタイプだった。
だから高校に入って恋心を抱いて初めて「恋愛」の意味を知った。
例えば一緒にいない時も考えてしまうとか、こういうペアアイテムに憧れを持つとか。
それは芦戸を好きになって付き合って、初めて知ったことだった。
「へぇ。切島もこういうのに憧れるんだねぇ。じゃあ超可愛いくまさんのマスコット一緒につけようよって言ったらつけてくれる?」
「あー、まぁ絶対ぇ似合わねぇけど芦戸とお揃いならつけるぜ」
「ふふっ、そっかそっか。好きなんだねぇ、私のこと」
「そりゃな。好きじゃなきゃ告白なんてしねぇだろ。よし、ついたぜ」
貰ったブレスレットを手首に巻き終え、芦戸に向かって見せる。
芦戸は嬉しそうに「わあ!」と声を上げた。
「似合うじゃん。カッコいいぞ」
「そ、そっか。サンキュー!」
褒められることに慣れていない所為で嬉しさよりも照れ臭さが勝ってしまう。
そして俺はそれを隠せない。だからすぐにバレてしまった。
「照れてるー!可愛いー!」
「か、可愛くはねぇだろ!可愛いっつー言葉は芦戸みたいな奴の為にあんの!」
「可愛いって言ってもらっちゃった。嬉しい」
「そりゃ俺にとっては世界一可愛いし。いつも思ってるから」
「そなの?じゃあもっと言えよー」
「確かに。思ったことはもっとちゃんと言うべきだよな」
うんうんと真剣な顔で頷くと芦戸は焦ったように両手を振った。
「ちょっと待って。なんか切島、そうなったらずっと言い出しそうなんだけど」
「おう。言うつもり。芦戸のこと可愛いって見る度に思ってるからずっと言うかもな」
「……分かった。その半分でいい」
「ん?そっか。了解!」
ぐっと親指を立てると芦戸は「はぁ」と溜息をついた。
「切島って今時珍しいぐらい純粋だよねぇ」
「純粋っつーか単純な。爆豪によく単純バカって言われてんし」
「正直爆豪も単純バカだけどねー。確かにそうとも言えるけど私から見たら切島は純粋って感じ」
「へぇ。それっていいのか?」
「うん。そのままでいてね。そういうとこ、好きだから」
ニッコリと笑った芦戸が可愛くて思わず両肩を掴んでしまった。
そのまま見つめ合ったらもう──キスする流れでしかなくて。
自然と顔を寄せ合って唇が重なる、寸前。
「切島ーっ!」
「起きてるかー!」
部屋の外から聞こえてきた大声は上鳴と瀬呂のもの。
「っ!」
弾かれたように2人して顔を離す。
そして俺は「わ、悪ぃ」と何故か小さく謝った。
「ふふっ、お約束展開。じゃ、また今度ね」
そう言って笑った芦戸は今までで一番照れた顔をしていた。
ピンクの頬が更に濃いピンク色になっていて。
「お、おう!今度はちゃんとすっから!」
「楽しみにしてるぜ」
「あと今芦戸すっげぇ可愛い!」
「これ以上照れさせんなよー。てか上鳴と瀬呂、いいの?」
「あ、忘れてた!」
ドアに近付いて「今開けるー!」と2人に向かって返事をする。
「……急に漢気全開になるんだから、もう」という芦戸の呟きは俺には届かなかった。
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