零落した神と少女
俺は、誰かに大切にされていたのだろうか。
縁側に寝転がり、ぼんやりとそんなことを考える。
どれだけ昔だったか。腕の立つ剣士の所持品の太刀に俺は宿った。だが、一体いつからだったか…剣士は太刀を使わなくなった。手入れは辛うじてしてくれていたが…その時点で俺の知っている人ではなかった。
ああ、捨てられたか、譲られたのだろうか。呑気にそう考えながら、過ごしていた。
刀の付喪神なので、刀という宿主から離れすぎれば別物に変化してしまいかねない時期に、刀が置かれていた建物…この庵でゴロゴロしていた。
…いや、だって使われた記憶も殆どないし、退屈だし…妖怪だけど妖怪とは言えない中途半端な存在ともいえる。それが俺だ。だから、下手に暴れたりすれば…色々と面倒だったからゴロゴロしていた。ただ、それだけのこと。
でもたまに気になる。気になってしまう。
俺が付喪神だからかは、わからない。わからないが…
「あー…もう、めんどくせぇ…」
やめだ、やめだ。考えてもキリがない。
剣士も…もう何百年も昔の話だ。到底生きちゃいないだろう。ならもう、いいじゃないか。それで終わり。
そう、それで終わりでいいのだ。
だから、一瞬脳裏によぎる、黒髪の人は、関係ないんだ。
「どうせ、人間なんてそんなもんさ…」
自分に言い聞かせるように、そう言いながら腕で目元を覆う。
薄らと光を感じるが、気にしない、気にしない。
「もう、どうでもいいや」
俺の言葉が、庵の中で静かに響いた。