遥か遠い記憶
「……誰?」
誰かが此方を見ている、そんな気がした。
(……また、迫害しに来た人間かな。)
エルフ達は追い出そうとするだけで、迫害まではしない。
そうしてくるのは、主に人間達。
どちらも嫌だが、人間の方がもっと嫌いだった。
「ねぇ、いるんでしょ?」
少し声を張り上げ、辺りを見渡し、耳を澄ます。
人間の姿のハーフエルフだけど、聴力はエルフ寄り。 だから、人間には聞こえない音を、エルフ同様に聞くことができた。
僕の声に驚いたのか、何かが動き、葉が擦れる音が聞こえた。
そして、聞こえた方……人が隠れるのに丁度いい低木…に近づく。
「ここにいるんでしょ?隠れていたって無駄だよ。」
まあ、迫害しに来た人間ならば、全力で逃げ出すつもりだけれど。
「…うー…見つかっちゃった…」
聞こえてきたのは、意外にも少女の声だ。
ガサガサと音をたて、低木の陰から長い黒髪の人間の少女が姿を現した。歳も同じくらいか、少し年下という感じだ。
少女は少し拗ねた様子で僕を睨み付けてきた。
「なんで分かったのよ…」
「なんでって…そもそもどうして隠れていたんだい?」
僕がそう言うと、少女は軽く目を逸らしながら、小さな声で呟いた。
…その声は、僕には(聴力故に)ハッキリ聞こえたけどね。
「……だって、気になったから…いつもここに居るから、近くで見てみたいなって……」
「…僕は見世物でも何でもないよ。それに、どうせキミも僕を迫害しに来たんだろ?」
思わずそう言ってしまうと、少女は目を見開き、少しばつが悪そうに俯いてしまった。
「ごめんなさい……私、そんなつもりじゃ…」
「………。」
「ごめんなさい…!」
申し訳なさそうに頭を深々と下げ、何度も謝罪する少女。
もしかして……本当に…この娘は…
「…もういいよ。そこまで謝らなくても。」
「でも…!」
「その様子だと、さっきの言葉に嘘とかは無さそうだしね」
僕がそう言うと、彼女は恐る恐る顔をあげた。
「…本当に違うからね…?」
少女の目は若干潤んでいた。
ここまでして嘘を吐くとしたなら、余程タチが悪いけど…なんとなく、嘘は吐いていないと感じた。
「わかったよ。」
そう言うと、少女の表情が明るくなった。
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