雨ニ消エル
◇
「…っ!」
「あだっ!?」
がばっと身を起こす。が、思い切り何かとぶつかり、向こうも悲鳴を上げた。
「いってぇ…何すんだ時雨…」
ぶつかった額を擦りながら目の前の人物――竜胆が少し恨めしそうに言う。
それを見て、俺は茫然としていた。
「………生きてる。しかも透けてない」
「…は?何言ってんの時雨」
怪訝そうに竜胆が俺の顔を覗き込む。…赤紫の瞳じゃない。いつもの青い瞳だ。
「……何?オレの目を見詰めちゃってさ。寝ぼけてるの?それとも見惚れた?」
「アホかお前は。…寝ぼけてただけだよ……ん?」
身を起こして気付いた。なんでこいつに膝枕されていたんだ俺!?
いやそもそも俺は…確か、竜胆の散歩(と言う名の異世界巡り)に巻き込まれて、一緒になってあの世界…蒼夜達が管理している世界に来て、休憩ついでにあの桜の樹の下で休んでいたハズ…。
…あれか、いつの間にか寝たのか、俺は。で、何故か竜胆が膝枕してくれた、と……。なんか男女逆転しているような気がしてならないんだが。…それにしても
「………何だったんだ、あの夢は」
――気付いて欲しかった
夢の中の竜胆はそう言った。まさかとは思うが、あの夢は―――
(俺が竜胆の存在をちゃんと認識しなかった結果の末路……?)
いや、まさかそんなことがあるのか……?妙に現実味のある夢で不気味に感じる。
「…時雨」
「なんだよ…りん、」
名前を呼ばれ、振り返った瞬間。俺の言葉を言わせない、と言うように竜胆が唇で塞いだ。
「……!?」
え、は、ちょっと待て、これはどういう…!?
完全に思考がグチャグチャになる。俺から離れた竜胆は、それを見てニヤリと笑った。
「なっ…おま……!!」
「ごちそーさん♪」
「ま、待てやこらァァァァァァ!!!!」
◇
実の所、何となく察しはついた。
休憩、と言っていつの間にか時雨は眠っていた。なんとなく膝枕をしていたが、ふと見たら時雨は泣いていた。
元々オレは時雨だったような者。正確には“生前の時雨”の名残。それがオレ。あの子が神になる前までは、まだ“縁”は繋がっていたが…現在は僅かな程度。結果的にお互い別々の存在になっている。
だから、昔だったらなんとなく時雨が何を思っているのかなど、感じ取る事ができたが今はほとんどない。ほとんどない、ハズだった。
けれど今日は…今日だけは何故かわかった。
――とても、悲しい
気付いてくれてありがとう
(何故見てしまったのかはわからないけれど)
(けど、思うのだ)
(今のオレは、本当に―――)