雨ニ消エル





























「――悪いな、竜胆」


 確かに俺は身動きが取れなかった。けど、ただ倒れるだけで終わる、なんて俺はしない。

『ぁ……』

 竜胆の身を貫く、光の剣。…《天ノ刃》だ。

 透けているとはいえ、背中から胸を剣は貫いている。――多分致命傷だ。
 それが当たったのか、振り上げていた腕はだらりと落ち、ナイフを手放す。光の剣が消えると同時に彼は俺の上に覆いかぶさるように倒れ込んだ。だというのに、その重さはあまり感じない。ただ、俺の上に何かが乗っている。その程度の感覚だ。

「…竜胆。」

 どうにかして身を起こす。殆ど重さを感じない、ということもあって、彼ごと一緒に半身起こす。

『………』

「…一体、何があったんだ。」

『………』

 竜胆は俺の肩口に頭を乗せたまま、動かない。
 まぁ、致命傷だろうな、さっきのは…と思っていると、ピクリと動いた。だが、自分で動ける程の力はもう残っていないみたいだ。…仕方なく、竜胆を動かし、膝に頭を乗せた。

「……?」

 そうして、気付いた。てっきり、雨の雫と思っていたソレは、涙だということに。
 目尻に残った涙が零れる。それをそっと指で拭う。その感覚に気付いたのか、竜胆は薄く目を開ける。
 相変わらず、赤紫のままだが、そこに殺意や復讐心は残っていなかった。




『………』




 小さく、声を発さずに竜胆が口を動かす。


 そして、目を閉じ、霧散するように消えた。



「………なんで…?」



 何故、お前がそんなことを言う?
 何故、お前が消える必要がある?
 

 わからない。あまりにも急すぎて、わからない――

 





 ただ、わかるのは


 何かを言おうとしたことのみ。





 最期、竜胆はこう言おうとした―――――










 
気付いてくれてありがとう
誰か気付いて




(君にオレは“私”であると)

(気付いて欲しかった―――)




 
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