雨ニ消エル


『っ…!』

 ばしゃん!と派手に見えない相手が地面に叩き付けられる。同時に、何かが揺らいだ。

「!」

 ゆっくりと、見えなかった何かは像を結ぶ。
 内側が青色という変わった長い金髪を一つに纏め、紺のコートを纏った青年――

 ――ああ、俺はこいつを知らない知っている

「…竜胆?」

『………』

 顔は俯いたまま、立ち上がる竜胆。けれど、何かがおかしい。…なんでこいつ、透けて見えるんだ…?
 いや、以前から俺は竜胆をたまに認識できない、ということはあったが…今の格好の状態なら確実に認識できるはずだ。なのに……何故だ?

 竜胆が顔を上げ、―――俺は驚くしかなかった。

 普段、竜胆の瞳の色は青。場合によっては赤になることもあるらしいが、それは滅多にない。
 けれど、今の竜胆の瞳は赤紫。……一体、何があったんだ。

『………』

「おい、お前…何があったんだ」

 一歩近づこうとすると、竜胆はナイフを構え、俺を睨みつけてくる。

 雨に濡れながらも赤紫の瞳は俺に対して強い殺意を向けてくる。否、これは殺意というより……

(復讐心―――)

 短刀を構えながらそんなことを考える。今度は向こうから突っ込んでくる。短刀で防ぐが、先程と違い、迷いなく攻撃を続けてくる。

「ちッ…!厄介だな…!」

 一度距離を取ろう、と身を引こうとする。だが、読まれたのか、竜胆は俺の足を引っ掛ける。

「っうあ!?」

 咄嗟のことで対応できず、バランスを崩した。先程俺が竜胆にしたように蹴りを入れられる。

「がっ…!」

 一瞬息が止まる。ばしゃん!と水溜りに倒れ込んだ。

 ――ああ、さっき俺がやったこと、そのまま返されたな。

 なんて、自嘲しつつも仰向けのまま短刀を握り直す。
 …ゆっくりと竜胆は俺に近づく。雨に濡れた顔から雫が落ちる。相変わらず、赤紫の瞳から感じ取れるのは殺意と復讐心。

『………』

 竜胆は何も言わない。ただ、俺を殺そうとしている、それだけはわかった。
 起き上がろうとすると突き飛ばされる。そしてすぐさま馬乗りにされ、ナイフを振りかざした。

  
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