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雨ニ消エル


 その日は、生憎の雨だった。

「雨か…」

 不意に以前ユウサリに背負われて帰ったことを思い出す。…なんでこれを今思い出したのやら…

 それにしても、俺は雨にいい思い出があまりない。というのも、俺が“私”になる前の一つに、雨の中で死んだ、という記憶があるからか、どうも雨は好きになれない。なのに、俺の名前は霜月〝時雨〟。雨に関する名前だ。…まったく、何なのだか。


 冷たい雨の中、左腕を失い、ただ茫然と立ち、何もかもを諦めてしまった“私”。


「あーー、思い出したくもない!」

 ダンッ!と近くの壁に殴りつけ、紛らわそうとする。…というかさっさと帰ろう。早く宿に戻りたい。このままだと、濡れ鼠になってしまう。

 近道でもしていこう、と思って路地に入る。
 






 …それが、いけなかったのだろうか。どうも雨の日は俺にとって厄日らしい。



「………おいマジか…」

 明らかに異質な気配…この世の者ではないと直感する。
 しかし俺には見えない。目を凝らせば見えるのかもしれないが…と思っていると、気配のする場所の水溜りがパシャンと跳ねる。

「!」

 咄嗟に身を引く。同時にヒュッと風を切る音。…こいつ、刃物か何か鋭利な物を持っているらしいな…!
 だが、見えない。武器も、その存在も――これが厄介だ。

 手掛かりとして、水溜りと雨で把握は出来る。というのも、そこに“人がいる”というように雨が弾いているからだ。…雨じゃなかったら本気で不味い。こんな街中で本気を出すなんてことはあまりしたくない。下手すりゃ、“余計なモノ”も呼び寄せかねない。

 まして、ここは路地だ。人通りが少ない、というのは巻き込む可能性が低いからいいのだが、戦うことに対してはいつもの様に出来そうにない。

「ったく!」

 空間から短刀を出し、構える。いつも使っている刀と違って、かなり接近することになるとは思うが、ここは路地だ。2、3人横に並んで広がれる程度だし、いつもの様な戦闘は出来そうにない。ならば、敵の懐に飛び込んで討つ方が早いだろう。

「さて、さっさと終わらせるか…!」

 前に跳躍しながら短刀を突き出す。見えない影がそれを何かで受け止める。そしてほぼ直感のまま、空いていた左手で腹部に迫っていた腕らしき物を掴む。

『!』

「甘いな!」

 そのまま短刀に力を籠め、相手が持っている武器を弾き上げる。掴んでいた腕から何となく相手がバランスを崩したのを感じ、手を放して間髪入れずに蹴りを入れる。

 
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