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崩壊―朱の誓い―


 ――翠緑ノ樹海


 眼前には、緑の大地を朱で染め上げられていた。

 その朱は自分達の物なのか、敵の物なのか……考えたくもない。


「…倒せた、のか…?」

「ああ。…何とかな」

「………ッ」

 目の前にいる医術師の青年…ルノアにそう答え、自分が放った矢によって力尽きたオオカミを見る。


 そして、嫌でも視界に入る「仲間」達の亡骸。



 ユヅルが震える体を自分で押さえながら、それを見ないようにと目を瞑る。その間にも、オオカミによって切りつけられた右腕の傷から血が流れる。

「…待ってろ、止血するから……」

 そう言って治療を始める。だが、ルノアの手は震えていて、息も荒い。…多分、こいつもギリギリなんだろうなと察した。


 粗方終えると、今度は俺の方を見て、いつものように笑いかけてくる。

「次は……ッ…アンタだ、トキワ」

 額…いや、ほぼ頭かもしれない。俺もまた、オオカミに切りつけられていた。そこから血が流れているのが、嫌でもわかる。正直、目に入りそうだし…てか入って滅茶苦茶染みる。

「いいよ…これくらいは…」

 軽く押し退けようとすれば、ぐらりと目眩がする。立っていられずに、座り込めばそのまま止血の手当てをされた。

 やはり、ルノアの手は震えている。むしろ、ユヅルの時より酷くなっていた。

「ルノア…お前も…手当てしてやろうか?俺も一応は出来るし」

「はは…いいよトキワ。いいんだ…もう…」

 力なく、乾いた笑みを浮かべる。…明らかにおかしい。いつものルノアなら、こんなことは言わない。

「ど…どういうことなのよ、ルノア…!」

 震えた声でユヅルが彼に一歩近づいた時。

 ぐらり、とその体が傾き、倒れ込んだ。

 倒れたルノアの背中を見て、俺達は息を呑んだ。





 メディックの象徴ともいえる白衣。それを背中全体に真っ赤に染めていた。


 …素人でもわかる。手遅れだということが。


「い、いや…!ルノア…ッ!」

 ユヅルがルノアを起こそうとするが、腕を負傷した為か、上手く出来ない。代わりに俺が起こせば、ルノア自身が俺の肩に手を置いた。
 …その時点で、力なんて残っていないのがわかる。けれど、どうすればいいかもわからない。

「ルノア、」

「ユヅルさん、トキワ……オレはもう…駄目だ。」

 弱々しい声で言う。

 彼には、それが嫌と言う程わかるのだろう。自分がメディックだから、その知識があるから。

 けれど、ユヅルは認めたくないのか何度も首を横に振る。

「いや…いや…!い、今すぐエトリアに戻ればきっと…!」

「…わかるんだよ。オレさ、メディック…だろ?だから……」

「…もういい。喋るな。」

 苦し気に呼吸をしながら話すルノアを見ていられなかった。けど、何も出来ない……俺には、何も………

 だが、ルノアは首を横に振る。

「いや……だね。ここで止めたら…オレ、すぐに死んじゃう…から…。最期に…、言いたいことがあるから…」

「最期とか…言わないでよ…!」

「…ルノア…お前」












「―――――…生きてくれ………
 オレ達が、出来なかったことを、アンタ達が…成し遂げて…欲しい。…だから…生き……てくれ…」


 そう言ったルノアの顔は、いつもの笑顔と似ていて。


 けど、次の瞬間には、寄り掛かるように俺の肩に頭を乗せる。



 その重みが、やけに重く感じた。












 朱に染まる







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