第一印象
*
「随分と浮かない顔をしておるのう」
「ふえっ!?ほ…ホオズキさん…!?」
部屋でぼんやりと窓の外を眺めていたら、不意に話しかけられ、振り返ると銀髪のシノビの女性、ホオズキさんが立っていた。
…いつ入って来たんだろう、この人←
「久しいのう、シズク。ユヅル殿の所以来かの?」
「そうですね…お久しぶりです。」
ぺこりと頭を下げる。…確かに、最後にホオズキさんに会ったのは一年ぐらい前だろう。ユヅルさんとカノンさんが南の方へ行く、と言ってから、彼女もまた同じ方へ行ってしまったから。
私がタルシスに行くまで、トキワさんに私の住んでる里まで着いてきてもらって、弓を教えてもらっていたし…。それまではユヅルさんの所で教わっていた。
「ホオズキさんはいつここに?」
「うむ。粗方海都での仕事が片付いたからこちらへ戻ってきたのじゃ。元々、某もタルシスで"仕事"をしているようなモノだからのう…。 それに、シキ親方殿もここのギルドに入ったと聞いてな…ちと情報を自分なりに回収していただけじゃ。」
「シキさんの…あ、あの【始末屋】のことですか?」
噂程度でなら聞いたことがある。冒険者があまり受けない依頼を受け、こなしているというギルドのような集団がある、と。
…まさか、そこの親方に当たる人がこのギルドに入るとは思いもしなかったけれど…。少し話してはみたけれど…思ったより優しい人で驚いた。
「ホオズキさんもそこの一員だったんですね…。」
「うむ!それと、あのオルフィもここにいるそうではないか。」
「う…オルフィ…さん、ですか……」
「ん?まだ会ったことがないのかえ?」
「い、いえ…一応会いました……けど…」
ホオズキさんの視線から逃れるように窓の方を見る。
……確かに、会ったことはある。けれど、まともに話したことはない。
理由はその……ちょっと怖い感じがするからだ。なので少し遠くからしか見たことが無い。
ちゃんと話してみようとは思っている。けれど…いつも逃げてしまう。
「うーむ…その様子だと、ちゃんと会っておらんな?」
「……はい…」
「ふむ…確かにあやつは近寄りがたい感じもしなくはない。だが、悪いヤツではないぞ?」
「ぅ…わ、わかってます…多分。」
「………」
窓に怯えた自分の顔が映る。…それをじっと見ているホオズキさんの姿も目に入った。
「のう、シズク。おぬしは某が怖いか?」
「えっ…?」
ホオズキさんの言葉に思わず振り返るが、彼女は背を向けていた。そしてもう一度「某が怖いか?」と聞いてくる。
「い…いいえ。怖くはないです…」
「ふむ。ならばもし、某がシノビではなく夜賊であったら?」
「それでも…怖くは…ないと思います…」
「ほう、それは何故じゃ?」
「え…?ホオズキさんは…シノビでも、夜賊でもホオズキさんという人には変わりないから…」
私が答えた瞬間、急に振り返り、私の肩を優しく掴んだ。その表情は優しげに微笑んでいる。
「うむ。そうやって見れるのなら大丈夫じゃ。…シズク、おぬしは今、オルフィをどのような“目”で見ている? 一人の人として?それとも、一人の夜賊として?或いは…恐怖の対象として?」
「………」
「それを決めるのはおぬし自身じゃ。」
そう言うと、次の瞬間にはいなくなっていた。窓は開け放たれ、風が入ってくる。
「どんな“目”で見る…か……」
自分に言い聞かせるようにホオズキさんの言った言葉を復唱する。
「そうですね……――」
……もう一度、考えてみよう。