化け物と騎士


 ◇


 ゆっくりと、意識が浮上していく。

「ん……」


 窓から朝日が差し込む。

 体に倦怠感を覚えながらも身を起こす。と、同時にポトリと何かが落ちた。手に取ってみると、濡れている布だった。熱でも出していたのか、片面が温い。

(あれ…俺は…?)

 一体何があったのだろうか、ぼんやり程度しか思い出せない。

 ただ、何となくだが苦しくて悲しかったことだけは覚えている。


 そう思った途端、夢の一部を思い出した。


(……ああ、そうだ)


 今まで、自分が"演じて"きたから、その反動のような痛みや苦しみで、俺はまた壊れそうになっていたんだ。

 例えば、見えない何かに、首を掴まれて、そのまま絞められたり。

 例えば、今まで傷を負った所が急に痛みだしたり。

 例えば、今まで聞こえないフリをしてきた言葉が、刃となって突き刺さったり……ともかく散々な夢だった。


 また、壊れてしまいそうで…もう一度"演じて"しまいそうにもなった。

 けれど、それはいけない、と自分でも振り払った。それと、もう一つ……誰かが、支えていてくれたような気がする。


 誰なのかはわからなかったけど、それは光となって、俺を包んで照らしてくれた。優しい声で、支えてくれた。


 否、「誰か」じゃない。あの声には…聞き覚えがある。そう、あの声は―――


「ん……っ」

「…?」

 不意に、手を握られる。見ると、エルディアが横で眠っていた。その傍らには水桶がある。

 そして、彼女は俺の手を握っていた。先程のは、そういうことか。

 …よく見ると、彼女の目の下にうっすらと隈が出来ている。周りにある物からして、看病か何かをしていたのかは察しがついた。それに…もう一つのことも。


「……もしかしなくても、君だったのか?エルディア」

 すやすやと寝息を立てているエルディアを起こさないように、そっと頭を撫でる。
 俺が触れると「んー…」と声を上げ、一瞬起こしてしまったかと思ったが、すぐに寝息が聞こえてきた。そして、繋いでいる手をぎゅっと握る。

 その柔らかい感触に、覚えがあった。…きっと、俺が夢の中でもこうやって握っていたんだろう。

「…だいじょう…ぶですよ……アタシが傍に、います…から……」

 また手を握りながら、今度は寝言を言う。

 その言葉には聞き覚えもあった。と、同時に胸の辺りが温かくなるのを感じる。


「ありがとう、エルディア」


 自然に口元も綻び、俺も手を握り返すとエルディアは少し嬉しそうに笑ったような気がした。






 青年と騎士






(その優しさに、少しだけ)



(甘えてもいいですか……なんてな)



.
6/6ページ
スキ