化け物と騎士
…
……
………
…――その日、夢を見た。
内容は覚えていない。けれど、とても苦しくて、悔しくて、悲しかったことは覚えている。
まるで、今まで麻痺させてきた分の痛みが…重みが…一気に返ってきたみたいに。
それも当然だろう。俺自身が、そうしてきたのだから。
その痛みに
その苦しさに
その悔しさに
その悲しさに
何度も、何度も心が砕かれて、散り散りになっていく気がした。
けれど、その度に優しい声が、温もりが何処からか伝わってきた。
その声に、温もりに安心感を覚えて、やっと、俺は眠れた気がしたんだ。
◇
その日の夜、トキワさんが熱を出した。
一応眠ってはいるけれど、寝息は常に苦しそうで…魘されている。
夜も遅かったけれど、うちのギルドのメディック達を呼び、診てもらったが…正直原因はわからないと言われた。
ただ、もしかしたら精神力の方に何か問題があるのかもしれないと言われ、一晩看ていることにした。
苦しそうに呼吸を繰り返し、額に汗を浮かべている。それを水で濡らした布で拭っていく。
「ぅ…ぁ……あ…」
魘され、苦しそうに喘ぎ、表情も歪む。
その時、トキワさんが小さく声を上げた。
「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい……許して…許し…て、……俺を…赦さないで…ごめん…ごめんな…さ…い……」
何度も許しを乞うような、そんな言葉ばかりだ。
目尻から涙が溢れ落ちる。何度も、何度も「ごめんなさい」「許して」と繰り返す。
多分、トキワさんの懺悔の表れなんだと思う。
つまり、それだけこの人は演じてきたということ。同時に、堪えてきたんだともいえる。
「…ごめ…んなさい…っ」
「トキワさん」
そっと頬に触れ、指で涙を拭う。空いている片手で、彼の手を握る。
熱があるせいか、その手も少し熱い。
濡らした布を水に浸したりしていたからだろうか、少し冷たいアタシの手が丁度よかったのだろう、少しだけ落ち着いたように見えた。
僅かにだけど、目を開けた気がした。涙に濡れた、青い瞳。
一瞬見えたそれは、何かに怯えているように…同時に助けを求めているように見えた。
その時にアタシを見たのかはわからない。けど、握っていた手が少しだけ握り返してきた。
「…許して……ごめ…んな……さい…」
再び魘され出す。握っている力が強くなる。
少し痛いけど、これくらいは問題ない。それよりも……
「ごめんなさい……ごめんなさい…俺の所為で……っ」
何度も許しを乞う言葉を繰り返す彼を、もう一度呼ぶ。
「トキワさん」
頬に触れていた手で、トキワさんの頭を優しく撫でる。さらりと、金色の髪が流れる。
「大丈夫、大丈夫ですよ。アタシが…傍にいますから。」
何度も名前を呼び、優しく語りかける。
たとえ、この行為が無駄だとしてもいい。でも、ほんの少しでもいい、アタシが…支えになれれば。
…ううん、違うな。「なれればいい」と祈るんじゃなくて、実際にアタシがなるんだ。
…だから、何度でも呼び掛けるよ。
「大丈夫ですよ、トキワさん」
何度でも、その名前を呼ぶから。
こうして、夜が更けていった
.
……
………
…――その日、夢を見た。
内容は覚えていない。けれど、とても苦しくて、悔しくて、悲しかったことは覚えている。
まるで、今まで麻痺させてきた分の痛みが…重みが…一気に返ってきたみたいに。
それも当然だろう。俺自身が、そうしてきたのだから。
その痛みに
その苦しさに
その悔しさに
その悲しさに
何度も、何度も心が砕かれて、散り散りになっていく気がした。
けれど、その度に優しい声が、温もりが何処からか伝わってきた。
その声に、温もりに安心感を覚えて、やっと、俺は眠れた気がしたんだ。
◇
その日の夜、トキワさんが熱を出した。
一応眠ってはいるけれど、寝息は常に苦しそうで…魘されている。
夜も遅かったけれど、うちのギルドのメディック達を呼び、診てもらったが…正直原因はわからないと言われた。
ただ、もしかしたら精神力の方に何か問題があるのかもしれないと言われ、一晩看ていることにした。
苦しそうに呼吸を繰り返し、額に汗を浮かべている。それを水で濡らした布で拭っていく。
「ぅ…ぁ……あ…」
魘され、苦しそうに喘ぎ、表情も歪む。
その時、トキワさんが小さく声を上げた。
「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい……許して…許し…て、……俺を…赦さないで…ごめん…ごめんな…さ…い……」
何度も許しを乞うような、そんな言葉ばかりだ。
目尻から涙が溢れ落ちる。何度も、何度も「ごめんなさい」「許して」と繰り返す。
多分、トキワさんの懺悔の表れなんだと思う。
つまり、それだけこの人は演じてきたということ。同時に、堪えてきたんだともいえる。
「…ごめ…んなさい…っ」
「トキワさん」
そっと頬に触れ、指で涙を拭う。空いている片手で、彼の手を握る。
熱があるせいか、その手も少し熱い。
濡らした布を水に浸したりしていたからだろうか、少し冷たいアタシの手が丁度よかったのだろう、少しだけ落ち着いたように見えた。
僅かにだけど、目を開けた気がした。涙に濡れた、青い瞳。
一瞬見えたそれは、何かに怯えているように…同時に助けを求めているように見えた。
その時にアタシを見たのかはわからない。けど、握っていた手が少しだけ握り返してきた。
「…許して……ごめ…んな……さい…」
再び魘され出す。握っている力が強くなる。
少し痛いけど、これくらいは問題ない。それよりも……
「ごめんなさい……ごめんなさい…俺の所為で……っ」
何度も許しを乞う言葉を繰り返す彼を、もう一度呼ぶ。
「トキワさん」
頬に触れていた手で、トキワさんの頭を優しく撫でる。さらりと、金色の髪が流れる。
「大丈夫、大丈夫ですよ。アタシが…傍にいますから。」
何度も名前を呼び、優しく語りかける。
たとえ、この行為が無駄だとしてもいい。でも、ほんの少しでもいい、アタシが…支えになれれば。
…ううん、違うな。「なれればいい」と祈るんじゃなくて、実際にアタシがなるんだ。
…だから、何度でも呼び掛けるよ。
「大丈夫ですよ、トキワさん」
何度でも、その名前を呼ぶから。
こうして、夜が更けていった
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