呼び名
「クオンさん!"クーさん"って呼んでもいいですか?」
ダンジョンを探索している途中、ハルニアがそう言ってきた。
クオンは一度首を傾げていたが、クスクスと笑いだした。
「? なんで笑うの?」
「いや…少し、ね。その呼び方する人が"また"いたんだなって思っただけだよ。」
「?」
クオンが言ったことが理解出来なかったのか、今度はハルニアが首を傾げた。
「……ねぇ」
そう思いながら見ていれば、ルイスにちょんちょんと肩を軽く叩かれる。
「どうした?ルイス」
私が言うと彼は一度クオンを見、それから小声で答えた。
「…もしかして、今…海都に留守番させている……ギルドの人達…?」
特に表情を変えることなく、ちょこんと首を傾げるルイス。
でも、彼が予想した答えは正解だ。それを肯定する様に私が頷くと、ルイスも頷き返した。
「ねーえー!どーいう事ですかー?」
ハルニアはというと……まるで子供の様にクオンに迫り、彼は苦笑していた。
「……教えてやったらどうだ、クオン」
「あはは…そうだね…。」
頷きながらクオンはハルニアに向き合う。彼女は漸く大人しくなったが…少しムスッとしていた。
「で、なんでなの?」
「それはね……まだ海都に来て間もない頃の話なんだけど…―――」
◆
「ねぇねぇ!クオンの事をあだ名で呼びたいんだけど、いいかな?」
銀髪のツインテールを揺らしながら嬉しそうにリュートが言った。クオン本人はというと、何故かきょとんとしていた。
「おいおい……いくら同じギルドメンバーになったからって、一応お前さんの主には変わりない人に対してあだ名はないだろ……」
呆れたと言うように肩を竦めながらカイザーがリュートに言う。さらに「そうですよ」と少し小さな声でタルトも同意した。
彼女は二人に言われ「えーー……いいじゃんかよー」とつまらなさそうに表情を曇らせる。が、救いを求めるかのように私を見詰めてきた。
「まあな…一応リュートはクオンの従者みたいなもんだろ。しかも…身分的にもクオンが上なのは間違いない。そうだろ?」
私がそう言えば、渋るように「え~…」と言うリュート。
「あ…その……」
と、ここで今まで黙っていたクオンが恐る恐ると言うように口を開いた。
「僕は……別に気にしないから、リュートがいいと思うなら構わないよ?」
少し困ったように笑いながらそう言った。
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