未だその傷は癒えずⅢ
「……お前の場合は少し見境が無さすぎるようにも思えるがな」
「ああ、否定はしないさ。」
吐き捨てるようにトキワさんが言う。シノも自嘲するように肯定した。
「でもなぁスティア。そんな風に誰かに言われてやめるくらいなら、最初から復讐なんてモンはしないぜ?」
「……え」
トキワさんの声色は少しだけ優しくなった。けれど眼光は変わらない。
「『そんなことその人は望んでいない』とか、『復讐なんて何も生まない』とか…綺麗事の御託並べられてもな……薄っぺらい言葉にしか聞こえないんだ」
だから俺はこう返そう。とぐっと拳を作り、冷め切った暗い青い目をオレに向けてきた。
「やり場のないこの無念、後悔は何処に晴らせばいい?憎くて憎くて仕方のないこの気持ちを静める方法は?復讐対象を許すなんてことは絶対に出来ないという気持ちは?むしろどうやって許せというんだ?許しなんて必要ない、復讐対象には殺すか酷い目に遭ってもらうしかないという感情の抑え方は?もっと生きて一緒にいたかった、目の前で温もりが消えて命が消えていくという感覚を目の前で体験して!彼らの無念を、もっと生きたかったという思いを、奪った相手にぶつけないと気が狂いそうだという、真っ黒い感情を!!」
次々と紡がれていく恨み節のような言葉。最後の方は、彼が経験した過去も混ざっているように聞こえてきた。
まるで、黒い刃のように、その言葉は心に突き刺さる…ような気がした。
トキワさんはそれと一息でまくしたてる。流石に一気に言った所為か、呼吸が荒い。一度深呼吸をしてからもう一度、オレを見る。
──…今度の目は、いつもの仲間に向ける目だった。
「……まあさっきのはもう、終わったことだけどな」
目を細め、苦笑しながら言った。
「終わった事…」
「そのワリには随分とまあ真っ黒い感情を再現したこと……もしかしなくても、完全に復讐心ってやつを拭いきれてないな?」
オレが内心思ったことを、同じことを思ったのだろうか、イベルが聞けば、トキワさんは頷いた。
「確かに俺は復讐相手──魔物なんだけどさ、そいつを倒したよ。…この間も、ある意味では二回もやってるな。」
「二回も…!?」
「ああ。…けれど、復讐してもそれを嬉しいとも、思わない。確かにそれは事実だ。…気は少し晴れたけどな」
そう言ってトキワさんは一度シノの方を見る。シノはその視線から逃れるように顔を逸らした。
「でも。復讐を果たしても、また次の復讐をしないといけない。それが次から次へと続くのであれば…そいつは少しマズい状態だとは思うな。」
所謂、復讐鬼というやつだろう。と彼は呟くように言った。
「もし、そうなったら…止まらない。止まらないだろうよ。憎悪の炎はそう簡単に消えるようなもんじゃないだろうから。きっと、その炎を燃やして、燃やして燃やし続けて、自分自身が薪になっても尚、燃やし続けるんじゃないのかな」
「……自分自身が薪になっても、か」
オレはそう言った感情はよくわからない。経験をしたことがないから、というのが一番大きいだろう。
でも、それを一度経験した人が言うには──
「…本当、底無しなんですね、復讐心の元って奴は」
「だろうな。もし、その気持ちを少しでも払えたのなら、復讐という物に漸く終わりを迎えることが出来るんじゃないか?ただ、その後に何が残るかはその人による、けどな……」