未だその傷は癒えずⅢ
──終わりの森
今度のメンバーはオレ達…ルネア達のパーティと、エーレ、トキワさん、ミゾレさん、タルト、ハルニアのパーティだ。
鞄を見つけた扉の前までに行き、鍵を使えば扉は開いた。…その後、芋虫の様な魔物(FOEだったっけ)に遭遇したが、エーレ達がそれを倒していっていた。
地図を描き、周囲を警戒、そして誰かいないかを探していると、シノが声を上げた。
「いたぞ、あそこの扉の前!」
彼が指さした方を見ると、確かに人影が見えた。
そちらに駆け寄ると、扉にもたれて座り込む傷だらけの冒険者がいた。
冒険者の男はオレ達に気付くと、傍らにある荷物を震える指でさした。
「すまない……。薬を……荷物から薬を取ってくれ……」
わかった、とルネアが短く返事をして彼の荷物から薬を探す。
治療用の薬を持参してはいたみたいだが、自分の治療を行える余裕さえない様子だ。
ルネアは荷物から薬を見つけると手早く手当てを行った。見かねたハルニアも手伝ったおかげで、治療の時間は短かった。
「よし、これでだいじょーぶ!」
「ありがとう……これで動けそうだ。」
礼を言うと、男の表情が暗くなった。
「……待ってろよ、あの野郎……。今度こそ、仕留めてやる」
その声と様子を見て、トキワさんの肩がピクリと跳ねた。一瞬驚いたように彼を見ていたが、何処か遠くを見て思い出すような目になった。
…何か思い出したんだろうか。そう思いながら、今にも扉に手を掛けてその先へ行こうとする彼を止めた。
「あの、オレ達、実は……」
依頼を受けたことを伝えると、彼は悲しげな表情を見せた。
「そうか……あの子がな……。」
「はい。それで、他のメンバーは…?」
さすがにこの人だけじゃないだろう。そう思いながら質問した。
「残念だが、ギルドはオレを除いて壊滅した」
「……!」
それを聞いて、みんな息を呑んだ。
「……壊滅、ね…」
一人は小さく呟き、もう一人は白衣の裾をぎゅっと握りしめながら。
…どうやら彼のギルドはサンドワームの攻撃で壊滅的な打撃を受けたらしい。
一人が囮になり。彼らを扉の奥へ逃がしたがこちらにはもっと強力なラミアがいて、他の仲間がやられたという。
鎮痛な表情をしながら、男は立ち上がった。治療したとはいえ、完全な状態とは言い切れそうにない身体で。
「オレは最後に残った一人として。あのラミアに復讐する……。仲間の仇討ちだ!」
そう言うと男は扉を越えて迷宮の奥へ進んでしまった。
「ちょ、そんな…!ルネア、エーレ!」
「わかってる。せっかくの生存者を見殺しには出来ない。…あの人を追うぞ!」
エーレが言うと全員頷き、ルネアが扉に手を掛けた。
「……復讐ねぇ。聞こえだけはいいよな、本当」
「…トキワさん?」
彼の呟きに、何人かが足を止める。
「仇討ち、弔い合戦。聞こえだけはいいよ。けど実際は…綺麗なもんじゃない。血と憎悪に濡れた、そんな物だ。復讐心はどうしようもないさ。相手が憎くて憎くて仕方ないのだから。」
帽子を目深に被り直しながら語る。
目深に被った所為で、彼の目元がよく見えない。
「で、でも…。復讐は何も生まないんじゃ…」
「そんな綺麗事、クソ喰らえだ!」
低い声で即座に言い返される。少しだけ見えたトキワさんの目は酷く冷たく、射殺すような物で……思わず身体が強張る。
「そうだな…相手が魔物でも、人間でも関係ねぇ…復讐心っていうのは簡単には消えはしねぇ。それは俺にもよくわかるぜ」
ククッと笑いながらシノも言う。口元をマントで隠しているが、口角が上がっているのがチラリと見えた。