未だその傷は癒えずⅢ
その依頼を受けたのは、本当に単純にただの勢いであった。
けれど、内容はまだ学生であるオレにとっては重く、しかし冒険者業というモノでは「よくあるような話」に近いのだろう。
◇
──終わりの森
すべてが枯れ果てたような森。
依頼人曰く、ここに入っていった冒険者達が帰ってこない、だから探してきてくれというモノだ。
それを受けたのはルネア、イベル、ガルデ、【緑の狼】とも呼ばれる方のシノ、そしてオレ…スティアのメンバー。
「ふぅむ。ま、こういうのはある意味じゃ“よくある話”でしょ」
改めて依頼の紙を見ながらルネアが表情を特に変えずに言う。
「……だな。」
それに同意するようにイベルが溜め息を吐きながら頷く。
「あとこれ、リューンで受けるヤツなら大体死んでるよね」
「そのリューンがどこなのかわかんないけど、そんな縁起でもないことを…」
「リューンっていうのは某カードワースの世界でだな「話しがややこしくなるからやめろあとメタい」うえーい、しゃーないなイベルゥ…」
渋々というようにルネアがイベルを見ながら、やれやれと首を横に振る。
「…いつものやつだな、コレ」
「…ですね」
思わずシノとオレは小声でそんなやり取りをしていた。…うん、最初の頃は凄く戸惑ったけど、今はもう…何も考えないようにしてる←
「ま、そんなメタ話はさて置き。…でも、こういうことは本当によくあることだと思うぞーアタシは」
茶化すようにルネアが言う。しかし彼女の目は冷えていた。
そんなまさか。と思いながらシノの方を見ると、彼は少し考えてから頷いた。
「ああ…それは確かに一理あると思う」
「……マジですか」
「前の世界で駆け出しだった頃、依頼人が冒険者になった娘を探してきてほしいというヤツを受けてさ…その人、もう生きてなかったんだ」
「………」
以前、カノンさんに聞いた言葉を思い出す。
──学生とはいえど、君達も冒険者であるのは代わりない。冒険者とは、常に死と隣り合わせだ。もし、迷宮に転がっている死体を見たのなら、明日は我が身の世界だ。それだけは忘れないでくれ
……明日は我が身の世界。
確かにオレも、危うく死にかけそうな目に遭うという経験はある。それに、魔王とかとも戦ったこともある。
…どれも命懸けだ。たとえ魔王や神と戦わなくても、冒険者という生き物は常にそうだ。
彼女に言われて、改めてそれを痛感した。
自分の身でそれが起きないから。或いは自分の周りでそれが起きないから。大丈夫なんじゃないかという錯覚を覚えてしまう。
けれどそれじゃ駄目なんだと…あの時の事や、ここの世界に来てそう感じる。
「だからこそ、よくある話。自分達がそうならない様に、気を付けるしかないんだろうけどな…」
シノが何処か遠い目をしながら呟いた。
「終わりというのは唐突に訪れる。それが防ぎ様のない事もあるけどな…。ま、気を引き締めておくというのは、それをしないよりはマシだろうけどよ」
「唐突に、ね…俺みたいにか?」
「すまん。…でも、別にお前のことを言ったわけじゃないぞ?」
「わかってるさ」
イベルが意味あり気に言うが、シノが自嘲するように己を指さす。ハッとしたのか、イベルは気まずそうに謝っていた。
「……まあ、そんな風になってなきゃいいけどね」
小さく、ガルデがそう言ったのが聞こえた。