未だその傷は癒えずⅡ
いつものように、仲間に挨拶をし、食事をとる。
それをどこか機械的に行い、ぼんやりしていると「聞いてます!?」とハルニアに怒鳴られた。
「…何が」
きっと、彼女に向けている顔は「酷く面倒」という表情をしていたんだろう。ハルニアは呆れた顔で溜め息をついていた。
「はぁー…上の空でしたかコノヤロー。何ですか、もうトシですか??」
「あ?30代に片足突っ込みかけてるだけでまだまだ俺は現役だっつーの!それ言ったらシキなんて俺より年上だわ!!」
「そんなに死にたいのかトキワ」
例え話としてシキの名前をあげればいつの間にか背後に本人が立っていた。不機嫌そうに細められた黒い目が俺を見下している。
…そして若干、いやかなり殺気立っているのを察した。
「あまり言いたくないが、命の恩人に対してその態度はないだろう……」
「ウン十年も前の話持ち出されてもねぇ…あの時、俺だって子供だったし、そりゃぁまあ感謝してるけどさ……今は関係ないだろ!?じゃあ何だ、俺がいつもお前の事を慕っていればいいのか?」
「それはそれで気持ち悪い」
「おう表出ろシキ。的にしてやる」
「全部払って剣の錆びにしてやろうか、この減らず口め」
「あーーハイハイ、二人共ストォォォップ!!というか、トキワさんは話聞けやぁぁぁ!!」
ハルニアに止められ、シキは短く溜め息を吐いてから宿から出て行った。
「…で、なんだよハルニア」
「だーかーら、依頼の話っつってんでしょー!」
痺れを切らしたようにハルニアが叫ぶように言う。
依頼?さっき本当にぼんやりしていたから真面目に依頼内容を聞いていなかった←
「なんの?」
「……マジで聞いてなかったんですか」
「おう」
そう返せば、ハルニアはじーーっと俺の顔を睨み、溜め息を吐いた。
「……大丈夫ですか。ちゃんと寝れてます?あんまり顔色よくないし…」
さすがメディック。目敏いな…と思う半分、あの夢を思い出し、変な風に心臓が跳ねた。
「あー…まぁ、一応は寝れてるよ、一応は」
「アレですか?エルさんを滅茶苦茶に抱いたとか」
「いや、どうしてそうなる」
斜め上の回答が飛んできて思わず真顔で突っ込んだ。
…いや、そこまではしないぞ俺は!←
「ふーん?そういうコトで寝不足とかだったらお説教案件でしたけど違うんだ?ならいいけど。」
「…で、依頼内容は?」
いい加減話が進まない。無理矢理話を元に戻すと、ハルニアは少し考え込んだ。
…何故そこで止めるんだ。不安になるじゃないか。
──……本当に、不安になる。
「…ある小迷宮での討伐依頼ですよ。狼の魔物が大量発生してるとかなんとか…」
狼、と聞いて俺の身体が強張った。
ハルニアもそれを見逃さなかったのだろう、目を細めながら話の続きを言う。
「一応先に地図の確認の為にそこに行ってきたんですけど…その魔物、フォレストウルフとかでした。とはいえ、衛兵と私達だけじゃちょっと厳しいかな、と思ったんでエルディアさん達にも協力してもらおうとしてたんだけど……その様子じゃ、厳しい?」
フォレストウルフがいた、となると恐らくFOEにスノーウルフ、そしてそのリーダー格としてスノードリフト。多分それらが原因なんだろう。ハルニアもその辺りは気付いているみたいだ。
そして、思い出すのが、あの惨劇。
ギルド【エヴィンス】が壊滅した、原因。
血に染まった緑の大地。残された、俺とユヅル。
──俺が、“演じ”はじめる原因となった日。
でも、俺はもう、大丈夫、そのはずだ。
あの時もそうだ、弔い合戦として、スノードリフトを討ったじゃないか。
だからもう、大丈夫、大丈夫、大丈夫。
大丈夫…そのはずだ。
「…平気だ。問題ない」
そう答えれば、ハルニアは少し黙り込んだが、「わかった」と短く答えた。