未だその傷は癒えずⅡ


 きっと変わったハズ。

 ──あの日、あの夜に。演じていた仮面は崩れ落ちた。


 ──麻痺した痛覚も戻ってきた。


 きっと、変わったハズなんだ。


 ……じゃあ、これは一体何なんだ。



 朱で染められた、緑の大地。

 そこに倒れているのは、【エヴィンスかつての仲間】ではなく


「──なんで」


 あまりにも見覚えのある、人達。
 
 盾を壊され、それでも守ろうとして立ったのだろう。身に着けている鎧を貫通した爪跡が残っている。亜麻色に近い金髪を広げるように斃れている。

「リーナ…」

 前を守っていた彼女がやられた所為だろうか、彼なりに守ろうとしたんだろう。脇腹に大きな傷を負い、そこから夥しい血を流して斃れていた。

「クロード…」

 人間とは違う、細い手足が力なく大地に転がっている。それでも杖を放さなかったみたいだが、その杖も真っ二つに折られている。青い長い髪が彼女の顔を隠していた。

「アクア…」

 ……あの人がいない。
 まだ生きてるのか、淡い希望を抱いてしまう。
 周りを見渡せば、少し離れた所にいた。


「………」

 希望を、持つべきではなかった。

 仰向けに倒れ、腹には大きな引っ掻き傷…見るに堪えないレベルの傷だ。
 虚ろな青い目には、何も映さない。

「どうして………」

 どうしてまた、俺だけが?
 
 
 ガサリ、と草を踏む音がした。音がした方を向けば……俺がいた。

 それこそ、“あの時”の俺が。

「全部、お前の所為だ」

 そう言って、彼は俺に矢を向け、引き絞る。

お前が生きていなければ、こんなことにはならなかった」

 あの時の俺が、恨み事を投げかける。俺を睨みつける蒼い目は、憎悪に燃えている。

 そうして、矢は俺に向かって放たれ──


 ◇


「ッ!!」

 飛び起きれば、そこは見覚えのある天井。
 呼吸は荒い。汗でシャツがへばり付いて気持ち悪い。

「……また、この夢か」

 最近、仲間が死に、最後に自分が出てきて自分に殺されるという夢を見る。
 その仲間も、毎回違うのだ。この間はエーレ達だったし……。今回は…

(よりによって、あの人かよ…)

 シーツを握りしめる。
 あまりにも、タチが悪い夢だ。

 けれど、胸騒ぎもしている。

 まさか、夢の様になるようなことが近づいているというのか。

「させねぇよ、絶対」

 ──これでは“演じていた”頃と同じだろう。自分が死んで、仲間を守れればいいという考えは。

 ならば……

「何が何でも、生き残ってやる」

 この時の自分が、どんな顔をしているのか。

 きっと醜いのだろう。そう考えていた。

 
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