未だその傷は癒えずⅠ
「ま、そんな自慢っぽいことはさて置き。じゃあ聞くけど【エヴィンス】ってギルド聞いたことない?」
「いや…聞いたことないな」
少し考えてからレオは答える。…彼が一体どれくらいの頃にエトリアの冒険者をしていたのかはわからない。けれど【ルミナリエ】は知っていた。ならもしかして、と思ったけれど──
「…まぁ、忘れてる人の方が多いだろうね、きっと。」
「【エヴィンス】か……ボクも覚えてるよ、ハルニア!だって、残った二人も【ルミナリエ】にいたじゃない!」
フォローするようにシリカがそう言う。
…けれど、残念ながら私が思い望んでいる答えとは少し遠い。
「うーん、まあそうか。仕方ないといえば仕方ないよね…あはは」
「ねぇ、【エヴィンス】って…?」
レオが気になる、という様子で聞いてきた。
「…少し暗い話だけど、いい?」
そう言うと、レオは目を見開いたが、少ししてから頷いた。
「昔、私達【ルミナリエ】が駆け出しだった頃。同じくらいの実力を持ってたギルドがあったんだ。それが【エヴィンス】。」
執政院からも駆け出しながらも少しずつ信頼を得ていたというのがこの二つのギルドだ。
「…どうして、そんなギルドの片方しか有名になってないのさ」
「そう思うよね。……【エヴィンス】はね、全滅したんだ。」
そう告げると、レオが固まる気配を感じた。けれど、私は言葉を止めない。
「正確には、5人の内2人を残して全滅。フォレストウルフとスノーウルフの襲撃を受けたらしい。なんとか撃退したけれど、それはいくつかの命を代償にする物だったみたい。」
──あの時の光景が目に浮かぶ。
緑の地が、朱に染まった森。
助けられなかった人達。
──……今の腕ならばきっと「冒険者」としては死ぬが「人間」としては生かすことが出来たかもしれないという後悔。
この気持ちは未だに燻ぶり続けている。
あの時に受けた傷は、「彼」も深いのだろう。
でも。確実に、私にも傷を残していた。
「その生き残った2人は【ルミナリエ】に加入。そのうちの一人が、彼らへの弔いとしてその魔物とそれを率いていたボスを倒した。」
「………」
「まぁその…何、その人がね、とんでもない人でさぁ!!」
「…!?」
突然の豹変にレオは驚きを隠せてなかった。…そりゃそうだ、さっきまでシリアスだったのにいきなり愚痴の体勢になったからね!私もこれはシリアスぶっ壊してると思う←
けどその人を知るシリカも察したのだろう。苦笑していた。
「弔い合戦の時点でぶっ飛んだ発言したんだよ?レンジャーって基本的に後衛じゃん。あの人、前に出て戦うっていって前衛してたんだよ!?その後もずーーーっと前衛!お蔭でレンジャーって前衛だよねっていう感覚が抜けないんだわ!どうしてくれるんだよあの馬鹿ぁぁ!!」
ここまで一息。思わずバンバンと地面を叩く。
「えっと……それは確かに変わってるね…」
「でしょ!?」