紅と黒猫


 ――ジュネッタの宿

 
 改めて宿で治療し、命に別状はないと言われ、取り敢えずは安心した。
 …見ず知らずとはいえ、助けた人間が死なれては寝覚めが悪い。

 それに、何となく気になってしまった、というのもある。

 一瞬だけ合った金色の瞳。髪色や服装もあって、まるで黒猫みたいだ、と思ってしまった。
 まぁ、相手はどう見ても人間…――アースラン族の少女だが。

 彼女の眠っている顔を見ながら、そんな風に思っていた。

(……それにしても)

 …装備も無しに、樹海で倒れていた。浅い階にいたとはいえ、妙だ。
 確かに、一層のある程度の部分までなら、一般人も行くこともあるらしいが…明らかに一般のそれとは違う。
 それに、服装も妙だ。見たこともない、制服の様なものだが…救出する際に触って分かったが、オレの知る限りの布の材質にはどれも当てはまらない。見たこともない素材のように思える。

(何者なんだ、こいつは)

 そう考えていると、ドアがノックされる。

「…どうぞ」

「失礼するね」

 聞き覚えのある声がし、そいつらが入ってくる。黒い服を着た長い金髪と海色の瞳の青年と、白い服を着た銀髪と海色の瞳の少年。そして、二人ともオレと同じルナリア族。

「何だ?ルナエの“白黒変わり者魔導師”兄弟」

「ちょっ…それで言わないでよクラース!君だってシドニアの“変わり者魔導師”って言われたくないでしょ?」

 必死にそう言い返す黒服の方の青年…ヴェルデを見る。その隣にいる白服の方…ルーメンは大人しくその様子を眺めているだけだった。

「別に?まぁ…嫌味として言われたら腹立つけど、そうでないならオレは構わないが」

「…君って、たまにわかんないよ…」

 呆れたように溜め息を吐くヴェルデ。その時、背後のベッドが軋む音がした。

「あ…」

 小さくルーメンが声を上げる。つられて、彼の視線の先を見れば、身を起こした少女の姿があった。ただ、何故かギョッとした表情をしていたが…。

「気が付いたか」

「…え……な…っ」

「まったく…ちゃんとした装備をしない上、樹海の中で倒れてたんだ、お前…」

「じゅ…樹海…」

 少女はやや困惑した表情を浮かべながら、チラチラとオレ、ヴェルデ、ルーメンを見る。
 この反応…自分の種族以外の種族を見た時の反応とよく似ているな。

「何だ?そんなにルナリア族が珍しいか?」

「ルナリア…族…」

 オレが言えば、少女は目を丸くする。…まさかとは思うが…種族を知らない、ということは……フレイ達のような、別の世界から来たとでもいうのか。

「あの、ここ…何処ですか?」

 …その質問を聞いて、今オレが考えたことは大体合ってるな、と感じた。

「…アイオリスの街、さ。ここはジュネッタの宿。ギルド【エテレイン】が拠点として使っている宿屋さ」

「アイオリス…?ジュネッタ…?ギルド…?」

 今度はキョトンとした顔をし、首を傾げる。
 …ちょっと予想外だ。〝ギルド〟と聞いてもこれといった反応なし…だと…?コイツは一体…何なんだ?

 
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