紅と黒猫
――鎮守ノ樹海
ギルド【エテレイン】に所属し、どうやって仲間と付き合えばいいのか色々悩んでいたある日のことだった。
…その日のメンバーはリーベ、エルバ、ユール、そしてオレ…クラースヌイことクラース。
まともな前衛はいないが、今回の目的は採集の為、そこまで深くは潜らなかった。
「さてさてー。結構回収出来たので、戻りましょー」
気の抜けるような声を上げながらリーベが手を挙げる。…一応異論はない。今日回収出来る分はもうやってしまったからな。
「はー…疲れるわねぇ」
「まぁまぁ。若い子がそんな事言ってたら今後が大変だよ?」
「……アンタって妙に貫録あるわよね。シラン様とはまた別の感じだけど」
「あははは。こう見えて僕は30歳いってるからなー」
「…ブラニー族って、凄いわよね、ホント」
ユールとエルバのそんな会話を聞いていると、エルバがこちらを見た。
「ねぇクラース、そんなに珍しい?」
「…は?」
「どーせ聞いてなかったんでしょ?要は、エルバがこう見えて30歳だって事実よ。」
まさかオレに話を振られるとは思ってなかった。…けど、まぁ…そうだな。
「別に珍しくはないだろ。アンタはブラニー族なんだろ?」
「まぁね」
「それに、種族による外見年齢と実年齢の差はよくあるだろ?」
「うんうん、確かにそうだね」
「………」
エルバは笑顔で頷き返す。どうもそういった反応に慣れなくて、思わず目を逸らした。
逸らした、先に
「………え」
人が、倒れていた。
思わず足を止める。それに気づいたのか、リーベが連れている犬狼、ヴァルムが彼女を引っ張った。
「え~?ヴァルム、どうした……のっ!?」
リーベも人が倒れていることに気付いたのだろう。その声で残りの二人も駆け寄ってきた。
「……人だね。」
「見ればわかる」
倒れていたのは、茂みから上半身だけが出ていてうつ伏せの状態。黒い服、長い黒髪、ということはわかったが…。全く動かない。
「これ…死んでるのか」
「は?何言ってんのよ、まだ決めつけないでよ」
オレがそう言えばユールが嫌そうに顔を歪めながら反論する。
そして、何故かオレの背中をぐいぐい押してくる。…おい、何でだ←
「おい、どういうことだよ」
「死んでるかどうか、アンタが見たらどう?それからなら、アタシも見てやるわ」
「お前っ…!」
「何?怖いの?」
ニヤリと笑いながら挑発してくるユール。これで下手に反論して挑発に乗ってしまうのは嫌だ。だが、このまま弱虫扱いされるのも御免だ。
「…フン、馬鹿にするなよ」
そう言って、倒れている人に近づく。…まさかとは思うが、身体が分断されて死んでいるとかはないよな?だったら、近づけば血溜まりや血の臭いもするだろうし…それがないということは、ほとんど無傷、なのだろうか。
「……」
なんとなく、その人の肩を掴む。そして、ずるずると引っ張る。取り敢えず、茂みからは出した方がよさそうだ。
…出した時に気付いた。この人…女だ。さらに言うなら…少女くらいの年頃だろうか。
そう判断したのは服装だ。あまり見たことの無い服装だったが、スカートを穿いていた。…例外的なヤツでない限り、これは女だと思うが←
「う……」
やや乱暴に引っ張り出した所為か、少女が呻き声を上げる。そして一瞬、目を開けた。
――金色の目と、一瞬だけ合ったが、すぐに閉じられる。
「……生きてる」
「そう。…ってはぁ!? なのにそんな救出の仕方してんの!?」
ユールに突っ込まれたが…ほぼ正論だったので言い返せない。というか、何故オレもこうしたのか、わからない←
そしてユールは時折悪態を吐きながらも少女に応急手当てを施していく。
「…一応、現状ではこれくらいね。あとは、街でやる方がいいと思うわ」
「だろうね。ホラ、帰るよー」
「ふぇ!? そ、そうですよね…!って、ヴァルム引っ張らないで~」
「…背も大きいし、クラースが背負ってよ。それとも、ルナリアだから、力がないとか?」
またユールが挑発。…こいつがこういううヤツなのは何となくは察した。オレはそれに答えることなく、少女を背負う。
…思ったより軽い。そう言えば、結構小柄な感じだったな、と何となく思い出しながら、オレ達は樹海出口に向かった。