剣士と魔導師
「え…っ!?」
ブラッドはフィーアにグイッと腕を引かれて下がる。…ヴェルデ達の言葉の意味を即座に理解し、俺はその場から飛び退く。
直後、俺とブラッドのいた位置には氷が突き刺さっていた。一瞬水晶かと思ったが、地面をわずかに凍らせていることから、そうでないとわかった。
「水晶じゃなくて…氷!?」
「間に合って良かった……。」
「一瞬、向こうで何かが動いたのと魔力を感じたからね…」
「マジか…さすがルナリア族…」
もしかしなくても魔力感知とナイトビジョンでわかったのだろう。にしても……
「まさか壁の中に魔物かよ…!」
「しかも、随分と大きなアイスクリープね…」
ブラッドが剣を抜きながら言う。…彼女の言う通り、この階層で見かけるアイスクリープという蒼い結晶に生命を宿した魔物は知ってるが、今俺達の目の前にいるソイツは、俺達が知っているヤツよりも遥かに大きい。
希少個体、とは違う感じはするが…色んな意味で希少個体じゃないのか、コイツ…。そんなことを考えながらも俺も刀を構える。
だが、さっき壁を壊すために使ったヴェルデとフィーアの魔法コンボが効いているのか、結晶の体には大きくヒビが入り、手負いの状態だ。…でも手負いだからって油断はしない。もしかしたら、予想外のことをしてくるかもしれないしな…。
「さて…あれだけハデにぶっ壊したんだ、これ以上やったら素材の方にも影響が出かねないだろうな」
「だろうね。…なら、手早くいきましょう。」
ブラッドが剣を構え、チェインの準備体勢になる。確か、チェインスキルは突属性でも反応するんだっけな。となると……。
「これ一択だな。くらえっ!鎧通し!」
ダンッ!と跳躍しながら魔物に向かって刀を突き出す。結晶の体に突き刺さり、内側にある何かを絶つ様な感覚が伝わる。
これ以上、下手に力を込めると刀に負担が掛かる。というか、本来の「鎧通し」というのは組み打ちで使う短刀を指すからな…。いつも使っている刀じゃどうもやり辛いが…まあその辺りはいつもゴリ押ししてる。←
…折ったり壊したりしないように気をつけてるが、まあ今の所はそんなことしてないから…大丈夫だ、うん。
いつも気をつけている事を一瞬考えながら、刺した刀を引き抜く。これで一時的に防御も低下したハズ。そこに今度はタンッと軽い音と風を切る音が響く。
「たぁッ!」
炎を纏わせた剣を振るい、確実に魔物へダメージを与えていく。さらにブラッドはもう一度剣を突き出した。
「消えなさい!」
突き出した剣は先程俺が刺した所に当たり、致命傷になったのだろう、大きくひびが入り、砕け散った。
「勝利、ね」
「ひひっ。意外と脆かったな」
「ある意味こちらが先手を打ったからね…。大分強引だったけど」
「えー、いいじゃんかよヴェルデー。結果的に勝てたんだしさ!それに、さっさと探さないとな!」
一瞬フィーアが悪人の様な笑みが見えたが…ブラッドが特に何も言わない辺り、いつものことなんだろう、と心の中で呟く。
そして改めて壊れた壁の方を見る。魔物もいたこともあってか、大分崩れてしまっている。…うーん、見つけられないかもしれない…。
「どうなんだ、シノ」
「んー…ちょっと待ってくれ…」
まだか、と言いたげにしているフィーアにそう返しながら目を凝らす。見かねたブラッドも一緒に探す、と言い、俺の隣にやって来る。
…やっぱりやり過ぎたのかも、と思ったその時だ。キラリとラズベリー色をしている鉱石が見えた。
「…! シノ、これって…まさか」
「ああ…!」
ブラッドも気付いたのだろう。…いや、俺が見つけたのとは違う、だが同じ物を見つけたようだ。
それぞれその鉱石を手に取る。こぶし大の大きさで、どちらも透明度が高い。
「あったぞ、ペツォッタ大鉱石!」
「マジで!?」
「うわー…実質直感で当てたようなもんだよね。すごいなー…」
後ろで見ていたウォーロック達に見つけた鉱石を見せれば、それぞれ異なった反応をした。…ヴェルデ、直感だって舐めちゃいけないぜ←
「あ…しかもこれ、採掘ポイントで取れるヤツもある」
「マジで!?」
ブラッドが指した所には確かに、見覚えのある鉱石がゴロゴロと転がっていた。…わぁお、大分凄いのを当てたんだな、俺…←
「ひひっ。これなら鉱石の分も回収出来るし、もう終わった同然だな」
「…そうだな」
フィーアとブラッドがそんな会話をしながら、手際よく彼女は回収していく。
「……あれ、フィーアは手伝わないの?」
「嫌だ」
「即答!?」
「あー…フィーアは肉体労働を好まない奴だから」
俺達【エテレイン】の分の回収を手伝いながらヴェルデがフィーアに問いかけると即答される。そしてブラッドが少し苦笑しながらそう言ってきた。…ああ、成る程。
(それにしても…この二人、なんやかんや言いながらも良いコンビだよなー)
なんとなく、そう思いながら【蒼の魔導書】の二人を見ていた。
*
あの後、さらに探せば竜水晶(しかも欠片ではなく完全な形で)も出てきて、両ギルドで山分けし、それを依頼主に納品する形になった。…まぁ、山分けしても結果的には同一の依頼人に渡すのだろうけど、まあ細かいことは気にしない←
「さて…お互いこれだけ集まれば十分だろうな。」
「だな!ちょっとの間だったけど楽しかったぜ!」
ニッと笑えば、ブラッドも少し微笑み返してきた。フィーアも「まぁ…悪くはなかった」と小さな声で言ったのが聞こえた。…フィーアは気弱…なのかもしれない。なんとなくそんな風に思った。
「じゃあ、俺達はこれで。…仲間と合流しなきゃいけないからね」
「ええ。…ありがとう、【エテレイン】」
「またな」
「ああ!また会えたら、その時もよろしくなー!【蒼の魔導書】の二人ー!」
お互い手を振りながら、それぞれの帰路に、場所へ向かう。
剣士と魔導師
(剣士と魔導師でも)
(武器も魔法も)
(異なる冒険者達の話)
【後書き】→