剣士と魔導師
「しかもこのクエスト、“出来れば”ペツォッタ大鉱石も納入してくれって話だろ…?見つけられる気がしないんだけど……」
はぁ…と溜め息を吐くフィーア。…そう、そうも言われてたなアレ…。俺、あの兵士から貰ったヤツしか知らないんだけど…。
「わかるぜ、フィーア……。」
俺がそう言えばフィーアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにブラッドの方を見る。…どうしたんだろ。
「でもペツォッタ大鉱石なんて…早々見つけられそうにもなさそうね…」
「だろうね。竜水晶ならまだわかるけど……」
ブラッドの言葉に頷きながらヴェルデが言う。その言葉に俺は何かを思い出した。
……もしかしたら、あるかもしれない…!
「ヴェルデ、ブラッド、フィーア!今から16階に行くぞ!」
「えっ…!?なんで16階?」
「確か…そっちには伐採ポイントが多かったはずだけど…」
「16階に何かあったか…?」
三人がそう呟くのが聞こえたが、気にしない。…というか、この可能性に懸けるしかない!多分!←
そう思いながら俺達は16階に向かった。
◆
――16階 輝く水晶で覆われた神秘の森
道中の魔物はヴェルデやフィーアの魔法で吹き飛ばし、近くまで来た魔物は俺とブラッドが切り払ってきた。
そして、目の前には水晶で出来た扉。
「ここなの?シノ。」
「ああ。…もしかしたら、と思ってな」
ブラッドの問いに頷き返す。フィーアとヴェルデは周囲を見ていたが、やがて思い出したのだろう、ヴェルデが「あっ」と声を上げる。
「確か…ここって……シノが竜水晶の欠片を取った所だよね?」
「ああ!」
あの時は取ろうとした直後、天井が崩れ落ちてきたが何とかかわした覚えがある。…ちょっと危うかったが、あの部屋は確か水晶に囲まれているはずだ。
そう思いだしながら扉を開ける。そこには前と変わらず、キラキラとした水晶が部屋を囲んでいる。
…何となくだが、入って真正面の壁辺りが怪しい気がする。
そこに向かって見る。周りと同じようにキラキラと水晶は輝いているが……何かが違うように感じる。
「そこに、何かあるの?シノ」
「多分な。でもこれ…ツルハシとかじゃ難しいかもな。」
それに、時間も掛かりそうだし……。そう考えながら何気なく仲間の方を見る。そこでまたひらめいた。
「そーだ!ここに丁度ウォーロックがいるじゃないか!」
「えっ?」
「はぁ?」
ヴェルデは目を丸くし、フィーアは顔をしかめる。
ブラッドは首を傾げてるし、誰一人としてこの意図を理解する者はいない……なんか悲しいぞ俺←
「ゴホン、つまり、ツルハシとかでやるより、こう魔法とかでドカーン!とやっちゃおうぜってことだ!」
「ああ、成る程……って『はぁぁぁぁぁ!?』」
頷きかけたヴェルデだったが、途中で叫ぶ。しかも、フィーアも一緒に声を上げていた。ブラッドもこちらを見て目を丸くしている。
「いやいやいや!?どうしてそうなるのさシノ!」
「何かもう、ストレスを発散したいんじゃないのかなって思ってだな。ならいっそのこと、魔法でどうよ?」
「確かにちょっとはイライラしてたけどさ…それとこれは別じゃないのかな…」
「じゃあ何だ。地道にツルハシでやるのか、アレ」
そう言って水晶が密集した壁を指差す。…道中で見かける、大きな水晶より小さいが堅そうだ。
「それは……「…確かに、面倒かもね。なら、そうしましょうか。」ブラッドさんん!!?」
あまりにも予想外だ、と言いたげにブラッドを見るヴェルデ。フィーアも同じように目を丸くしていたが、「まあ…ブラッドがそう言うなら…」と頷いた。
「……(チラッ)」
「ああもうわかったよ!俺もやりますよ、ハイ!」
「おう!サンキューな!」
半ば自棄、という感じだったがヴェルデも同意してくれた。よし。これでなんとかなるはずだ!
「よぉーし!そんじゃあハデに頼むぜ!」
「はぁ…もーなんでこうなったのやら…。」
何回目かわからない溜め息を吐きながらも杖を構える。フィーアも既に杖を構えていた。
「ちょっと待って。一応聞くけど、あの水晶に向かって放つスキルの指定とかあるの?」
「ん?あー…そうだなー…」
ブラッドが詠唱を始めようとしていた二人を止め、そう聞いてきた。…確かに、それもそうか…闇雲にやるよりは、何かあった方がいいよな。
…炎や氷は微妙そうだし…消去法で行くと雷だろうな…。…ん?そういえば……
「なぁフィーア、君って“六属性第四導師”っていう二つ名を名乗ったよな。…もしかして、六属ウォーロック?」
「ああ。そうだけど…」
「六属かー…となると、もっと別の魔法も出来るワケだよな…。…うん、よし。だったらこうしよう!ヴェルデは雷属性の魔法、フィーアは突属性の魔法で頼むよ!」
改めてそう決めると、二人は頷き、今度こそ詠唱を始めた。
「全力で行くよ!詠唱:圧縮術式――サンダーブレイク!」
「…受けろ、アーススパイク!」
本来なら広範囲を狙うはずの魔法を一か所に集中させ、火力を高める「詠唱:圧縮術式」をかけて雷を放ち、そこから突属性の魔法が飛ぶ。
同時に派手な音を立てながら水晶の壁が崩れ落ちる。…目論み通りだな。
「さて…あとはあればいいんだけどな…」
「そうね。出来れば見つかってほしい所だ…」
俺とブラッドがそう話しながら壊れた壁側に近づいた、その時。
「…!ブラッド、危ない!」
「シノ、何かいるよ!」
背後にいた二人のウォーロック達の焦った声が聞こえた。