雨と翡翠、そして浅葱
「あの私、アサギって言います。」
そう名乗った瞬間、目の前にいた二人の男女が固まる。…初めて会うけど、見覚えのある顔と認識できたのは、彼らが俺の“オリジナル”だからなんだろう。
しばらく固まっていたけれど、ふらっと動いた。かと思えば、拳を作り―――
「「先代のアホーーッ!!」」
「ごっふうう!!?」
「!?」
私の後ろに立っていたシラン様を殴り飛ばした。
「無許可もいいところだこのアホ先代!!というか、いつ俺がいいと言った!?」
「トキワの言う通りよシラン。私もいいと許可してないわ。」
「…どうせ言っても聞かんだろう、お主等は…だからこっそりとな?」
「……反省とかないのかアンタ。」
青年の方が明らかに嫌そうな顔をしながらシラン様を見る。隣にいた女性も睨むように見ている。
…やっぱり、私の所為なのか。
「…ごめんなさい。勝手に生まれたような存在で……」
「えっ、あ…」
「お、おい…」
二人に向かって頭を下げれば、彼らの戸惑う声が聞こえる。それからシラン様の溜め息。
「はぁ…ホレ、見たことか。お主等がそんなことを言うからアサギを傷付いてしまったではないか。」
「ぐっ……別に否定するつもりじゃ…」
「……むぅ。」
「アサギ、顔を上げよ。」
「あ、ハイ。シラン様」
慌てて顔を上げると、少し困った表情をしている二人、そして腕を組んで彼らを見ているシラン様の姿が。
「…我が一族の者が酷いことを言ったな。…確かに、私の身勝手もあるが、お主を造ったことに後悔などはない。…むしろ、我が一族の今後に、お主は必要になるかもしれないから、造りだしたのだぞ…? ミゾレ、トキワ。」
「今後…?」
「そう、今後じゃ。まあ…アサギが必要になる未来が来ないことが一番なのじゃが。」
「……随分と重い役割なんじゃないのか、それ。」
シラン様の言葉に青年…トキワが目を細めながら言う。隣の女性…ミゾレも同じだというように頷く。
…確かに、重い役割になるかもしれないと以前聞かされた。だけど……
「俺は、それでも平気ですよ。…それに、シラン様の隣に居続けることが、一番の願いですから…私はそれを叶えるまでです。」
自然と、微笑む、という行為を取る。それが意外だったのか、俺の回答に驚いたのかわからないが、オリジナルの二人が目を丸くした。