魔物との対話・その後
◇
酒場で情報収集をし終え、そこから出て、そのまま宿に帰ろうとする。
…その向こうから、見覚えのある狩人が歩いてくるのが見えた。
思わず足を止め、狩人を睨む。
その視線に気付いたのか、向こうもまた睨み返してきた。
「……何だ?ミゾレ。」
「…そっちこそ何よ、トキワ」
それだけ言って、再び口を閉ざす。沈黙だけが続く、そう思ってたが向こうの方から話題が出る。
「…まだ〝覚めない〟のか?お前は……あと少しなのに、まだ“演じ”るとは……成長してないな」
「だから何なのよ、“演じ”るって」
「それは自分で見つけなければいけない。俺が言っちゃあ意味がないんだよ。…君だって本当は気付いているハズだろうに。」
「………」
何だか言い返せなくて口籠もる。けれど、目は逸らさない。一族特有の蒼い瞳が私を写していた。
トキワは表情をほとんど変えずに見詰めてくる。その目は、何かを見定めるようにも感じる。
だが、目を閉じて呆れるように笑う。そして「やれやれ」と呟いた。
「全く……君も強情だな、ミゾレ」
「………フン」
ムッとし、そっぽを向く。自分でも子供みたいだ、と思ってしまい、少し後悔した。
「…特に用があるわけじゃないんでしょ?」
それを誤魔化すようにトキワに聞く。
「ああ。ただ偶然会っただけだしな…―――」
そこまで言いかけると、トキワは目付きを変えた。まるで、今この場が戦場であるかのように。
「何、どうかしたの?」
私は問い掛けるが彼は答えず、周囲に気を向けている。…何故街中なのに、と思いながらも邪魔になるのはいけないだろうから、静かに去ろうとした。
その瞬間、トキワが声を上げる。
「伏せろ、ミゾレ!」
何?と思いながらも伏せる。直後、トキワが腰に差していた小太刀を抜刀した。
「ちょっ……ここ街中よ!何で武器を抜いたの!?」
トキワは答えない。その代わり、カランカランと乾いた音がした。
「え……」
思わず足元を見ると、そこには二つに折られた矢が転がっている。
どうして矢がこんなところに、と思っていると、周囲に気を向けていたトキワが「行ったか…」と呟くのが聞こえた。
そうして小太刀を納め、落ちていた矢だった物を拾い上げる。
それをジッと観察し、「アルカディアでよく使われるタイプの矢だな」と言った。気になって見てみれば、確かに彼の言う通りだ。他のギルドメンバーが使っている物と似ている、というか同じだった。
「な…何で矢が……」
「………行くぞ」
「えっ」
相変わらずトキワは私の質問に答えない。そのことを不満に思う間もなく彼は腕を掴み、グイグイと引っ張りながらどこかへ向かっていく。
「ちょ…ちょっと!」
「静かに。…お前、狙われてるぞ。」
「!?」
振り返ることはせず、二つに折れた矢だけを見せながら言った。…つまり、その矢は私を狙って……――
(じゃあトキワは、私を庇ったってこと…?)
…どうなのだろう。ただ単に飛んできた矢を叩き斬っただけにも見えなくはないし…。悶々と考えていると、少しこちらに顔を向けながら話しかけてきた。
「事情は後で詳しく聞くからな。…取りあえず宿に戻るぞ」
「……わかったわ。」
何故自分が狙われているのか、よくわかならいというのが本音だ。
ただ、何かが引っかかるような気もしなくない。また考え込んでいると「考えるのは後にしてくれ。…自分でも警戒しろ」と溜め息を吐きながら言われる。
…確かに考えながらでは下手したら転びそう。言われた通りに考えることを止めて、警戒しながら宿への道を歩いていた。