血と一族


 そこまで言うとトキワさんは話を一度切る。アタシは長く息を吐いた。…どこか、息苦しく感じたからだ。

「…その、なんでトキワさんのご両親が狙われたんですか?」

 なんとなく気になったことを聞いてみる。…不謹慎なのはわかってるが、動機も無しに人を襲うなんて滅多にないだろうし…と考え出すと、気になってしまった。

「んー……あまりよく覚えてないけど、俺の家って…確か、診療所みたいなことをしてたハズだ。それで…何か、怒鳴り声が聞こえてきたのを覚えてる。一方的に怒鳴られていて、相手が逆上したのか、近くにあった医療器具を振り回していたってのも覚えてる。」

「医療器具…ですか」

 確か鋏っぽかったような気もする、と付け足してから続ける。

「それで俺達兄弟…子供がいたことに気付いたんだろうな。だから、両親を脅そうとでもしたんだろう、兄さんがその人に手を捕まれそうになった。…その時だよ…両親が庇ったってのは…。」

「それで、子供を庇おうとしていたことに更に逆上して……」

 その先は言いたくない。けれど、察しが付いたのだろう、彼は頷き、

「刺したんだろうな。」

 と静かに言った。




「…なあエルディア、どう思った?俺の…過去は。」

 彼の青い瞳が、アタシを写している。
 静かにジッと、それと少しだけ、射抜くようにも感じられた。

「そう、ですね…。本当に"散々"だった、とかじゃ、済まない気がします。」

「……そうだな」

「何て言うか、その…正直に言うと、言葉がうまく出てこないです。」

「まあ、な……」

 わかりきっていたと言うような答えが返ってくる。…何だか、情けないや。しかも、こんな過去があったとは知らずに、アタシは…あんな事を……―――


「馬鹿だ、アタシ……」

「エルディア?」

「本当、馬鹿ですよね……。トキワさんの過去をロクに知らないで、あんなことを言って…。支えようなんて思い上がったりして…」

 頭を抱え、下を見る。足元だけが、視界に入る。トキワさんからの返答がない。…当然だろう。きっと、呆れたんだ。
 そう考えると、胸が痛んだ。


「…まぁ、確かに昔のことは詳しく知らなかったよな。っというか、俺が言わなかったからな…。」

「………」

「でもな、エルディア。…君はどうしたい?」

「え?」

 どうしたい、と訊かれて、思わず反射的に顔を上げる。そこには、トキワさんが少し困ったような笑みを浮かべてている。
 どうして?と思っていると、アタシに一歩近付いてきた。

「今、君は俺の過去を知った。それでもまだ、話していないモノもいくつかある。…これだけでもわかるように、俺の過去は暗いし重い。それでもエルディア、君は…――」




 ―――俺の、傍にいてくれますか?




 そんな言葉が続いた。

 ちょっと意外な質問に呆然とする。…てっきり、責められるのかと思っていた。

 改めて彼を見ると、何処か寂しそうな笑みを浮かべている。
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