血と一族


「でも、回復はしただろ?エルディア」

「へ?……あ。」

 ニッといたずらっぽい笑みを浮かべながらアタシを指差す。

 言われてみれば、確かに…痛みも引いてるし、体が軽い。チラッと腕に付いていた掠り傷を見れば、何もなかったかのように綺麗に塞がっていた。

「え……何で?」

 さっき、指を口に突っ込まれた間に何かしたのだろうか。…あんなことされて、他の事を考える暇がなかったから、わからないし、心当たりだってない。

「何だと思う?」

「え…えー?そんなの、わかるわけが…」

「血だよ。さっき、お前に俺の血を飲ませた。」

「……あ、あれって気のせいじゃなかったんだ…」

 って、まさか、血で回復したっていうの?
 そのことが顔に出ていたのか、トキワさんは頷いた。

「なんで、血だけでそんな…」

「たった少量でもこの効き目だ。やはり恐ろしいな、"風ノ守"の血って」

「え…?」

 どこか遠い目をしながら、そんな風に呟いたのが聞こえた。

「詳しくは言ってなかったよな、エル。俺の半生ってヤツを」

「…確かに、そうですね。ただ、エトリアで全滅したというのは知ってますが…」

 アタシがそう答えると、トキワさんは頷く。

「エトリアの件は…まあ、ユヅルから聞いている分もあるんだっけな。」

 なら、話は早い。と付け足す。そして、何処か影を落とした表情をしながら口を開いた。

「昔、俺が7歳ぐらいの時、両親が殺された。俺と兄さんと妹を庇って、死んだ。」

「………」

 始まった話は、いきなり重かった。けれど、何も言わずに続きを聞く。

「…まだそれだけで済めばよかった。両親を殺した連中は…重い病に掛かっていたらしい。ついでに、俺達兄弟に逃げ場はなかった。なんせ、里連中全員が敵みたいになっていたからな。…それで、住んでいた里の連中が…"風ノ守"の血の能力に気づいてな。」

「さっきの、治癒の力ですか…?」

「ああ。…それで、両親の返り血を浴びたヤツらの病は治った。それで知られたんだ。"風ノ守"の人間の血には治癒の力があるって。だからその里にいた他の"風ノ守"の人間も殺されたんだ」

「!」

 そこまで聞いて、思わず息を呑んだ。…まさか、トキワさんの家族だけじゃなく、他の一族の人達まで巻き込むなんて……。
 トキワさんが一息をつく。そうしてからまた話を続けた。

「それで、その里いた"風ノ守"の一族は俺達兄弟を残して全滅。まさに血の海だったよ。それで、守る者がいなくなった俺達にも、その刃はきた。けど…まあ、運良くかすっただけで済んだ。それで、その血に触れた相手は……どうなったと思う?」

「え、今までの流れだと…治ったんじゃ…」

 そう答えると、トキワさんはゆるゆると首を横に振った。

「違うんですか…?」

「ああ、違った。そいつは…触れた所が、腐蝕した。もう、二度と使い物にならないくらいにな」

「え…っ!?」

 思わずそんな反応をすれば、彼は小さく笑った。

「まあ、驚くよな。けど、目の前で見た俺達も驚いたよ。…そのあと、相手が怯んでいるうちに必死になって逃げた。それで助かったんだ。…その里がどうなったのかは…まぁ、あの【始末屋】も騒動の鎮圧の為に関わっていたらしくて、一応聞いたんだが…思った通り、壊滅したらしい。」


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