麻痺した痛覚
「自分から消えない傷を作ってさ……しかも、こんなにだぜ?馬鹿だよなぁ、俺って…」
自嘲し、頭に巻かれた包帯を自ら解く。
包帯の下、額の辺りに三日月形にも見える傷跡。それが晒される。
「……この傷だけで、本当はいっぱいなのにさ……」
以前、タルシスに来る前に、ユヅルさんから聞いた話だ。
【ルミナリエ】に入る前、【エヴィンス】というギルドにいて、そのギルドはユヅルさんともう一人を残して全滅したという。
ユヅルさんの腕にも、十字の傷跡があった。全滅した時に負ったと聞いた。
そして、生き残りの片割れにも傷があり、その傷がその人をいつまでも苦しめているのだと。
「…馬鹿ですよ、本当」
そっとトキワさんに縋る。一瞬、彼が体を強張らせた。
「でも、ちゃんと気付けてるんですね。」
「……あ」
その言葉に、トキワさんが小さく声をあげた。
「…そう、かもな…エル。多分、〝演じて〟いた俺じゃ、きっと……」
気付けなかった、と掠れた声で呟く。
「…トキワさんは、どうしたいんですか?」
「そうだなぁ……やっぱり、"痛み"は消しちゃだめだよな……」
そこで一度言葉を切り、アタシと目を合わせてきた。
「やっぱり、使わない方がいいよな」
「…そうですよ」
少し困ったような笑顔で、彼はそう言った。
麻痺した痛覚
(麻痺させてきた痛みは)
(心も麻痺させていた)
(ならば、取り戻していこうじゃないか)
(もう、今の自分なら大丈夫だからさ)
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