麻痺した痛覚



「自己暗示」

「え…?」

 一言、トキワさんが言葉を紡ぐ。

「自己…暗示?」

「そう、自己暗示。何年か前にずっと『痛くない』って自分に暗示を掛けていた。そしたら、本当にあまり痛みを感じなくなったんだよ。」

 無言。アタシとリドウは何も言えなかった。
 だけど、次の瞬間、リドウがトキワさんを殴った。

「うぇっ!?」

「っ!?…いきなり何すんだよリドウ!俺、怪我人だぞ?痛ぇし!!」

「…いやちょっと確認をだな…あとついでに腹立ったから殴った。」

「ヤブかよこのメディック…!医術師が怪我人殴るか普通…」

 悪態を吐きながら殴られた箇所を擦る。見兼ねたリドウがそこにも治療を施す。

「傷跡から察するに、お前が痛覚を鈍らせることが出来るのは、刺し傷と切り傷だけ。さっきみたいな殴り等は無理みたいだが…合ってるか?」

「…ああ。多分な」

 …さすがはメディックと言うべきか。さっきのやり取りと傷跡で判断したみたいだ。それにしても、痛覚を鈍らせるって……


「便利のようで、実は一番危険だったりするんだぞ、それ」

「あー…うん。少しは察してるっていうか、なんとなくはわかってる。」

「だったら、今すぐやめるべきだな。」

「…へーい」

「治療もやったし、"ついで"もやった。…後は自分でどうにかしな、エル。」

 そう言ってリドウは部屋から出ていく。残されたのはアタシとトキワさんだけだ。

「…さて、リドウには話してないことが一つだけあるんだな、これが。」

「え?」

 シャツを羽織り、アタシの方に向き合う。まだ前を閉めてないこともあり、シャツのせいで傷跡が見え隠れしていた。


「俺の自己暗示は…多分、言霊にもなってる。恐らく、俺に流れる一族の血もあるのかもしれない。だからこそ、呪術的効果もあった状態で、痛覚を麻痺させている、というのが正解かな?」

「言霊……呪術…」

「ついでに言えば、この事を見抜いたのはルイスとアクアちゃんぐらいだ。ただ、それをどうこうするのかは…俺次第になるけど」

 そう言って、どこか悲しそうな笑みを浮かべる。
 アタシは…なんて言えばいいか、わからない。そう言葉に詰まっているとトキワさんはまた言葉を紡ぐ。

「…誰だって痛いのは嫌さ。でもな、エルディア。俺はこの力に頼り過ぎたと思っている。気付かないうちに限界を迎える…ギリギリそうならない程度にやってきた。あと、傷の治りも早いから、そうしてきた。だから、こんな風になっちまった。」

 そう言いながら、腹部にある傷跡に触れる。何かに引っ掻かれたような傷跡だ。


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