麻痺した痛覚
◇
最初の頃は、まあ偶然か我慢でもしているんじゃないかと思っていた。
けれど、トキワさんが傷付いていても治療を受けずに去ろうとする、という行動はほぼ毎回しているものだと後に気づいた。
何故、そんなに受けようとしないのか、疑問になって仕方がない。……だから。
「だから俺の所に連れてきたってワケか、エル」
「そうっすよ、リドウ」
目の前にいるメディックの男、リドウが苦虫を噛み潰したような顔をする。
…そう。今回も例によって治療を受けずに去ろうとしていたトキワさんを確保し、そのままリドウの所に連れていったのだ。
で、連れてこられたトキワさんはというと、キョトンとしていた。…ついでに今回も結構ボロボロで傷が多い。なのに痛がる素振りを一切見せない。
「まあ確かに、俺も気になるけどな…その反応は」
「でしょ?」
「つか、アレだけボロボロなのに痛くないとか凄すぎだろ!?」
そう言ってリドウは軽く引いていた。それを見てトキワさんがムッとする。
「何だよ、その反応は…。まあ、今回はお前が治療してくれるんだろ?頼むわ」
「ノリ軽いなお前…」
軽くツッコミを入れながらリドウは溜め息を吐く。そうしているうちにトキワさんは装備を解き、シャツを脱いで上半身裸になる。
あ、気恥ずかしい、と思ったのは一瞬だけだった。そのまま、アタシは固まってしまう。対しリドウはメディックということもあってか、然程驚かない。
「…お前、たまに診るけど、なんでそんなに傷だらけなんだ。」
「んー…まあ、冒険者やってるのも長いからなー」
へらっと軽い調子で答える。けれど、その言葉は頭にあまり入ってこなかった。
ただ、トキワさんの体に残るいくつかの傷跡が、目に焼き付いてしまっていた。
血の滲む真新しい傷、それ以外にも腕、腹部、背中に傷跡。既に跡は塞がっているようなものだと素人目でもわかる。
「いくら冒険者歴が長いからとはいえ、この傷の残り方は変だぞ。…お前、前に言ってたよな?前のギルドにもメディックはいたって。…そいつの腕がアレだったとかいうことがあるのか?」
「いや、ハルニアは普通に腕のいいメディックだぞ。あの若さにしてはすごい方だと思ってるが。」
「じゃあ、何で…」
思わずそう言えば、トキワさんは一度アタシをジッと見詰める。それからうーん…と考え込む。その間にリドウが真新しい傷を治療していった。
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