麻痺した痛覚
「はー、疲れた疲れたー」
宿のホールに顔を出すと、丁度トキワさん達のメンバーが戻って来た所だった。
みんな結構ボロボロだ。その為、アクアちゃんが手当てを行っている。
そんな彼女から、治療も受けずにフラリと横切る人がいた。
「はっ…!?」
アクアちゃんは治療に夢中でその人に気づかなかったみたいだ。他の人も、疲れていたせいもあるのか、誰も引き留めない。
(いやいやいや、マズイって…!)
あまり騒ぎ立てるのは良くないだろう。そう思いながら、こっそりとその人の後を追う。
どうやらその人は自室に割り当てられた部屋に行こうとしていたみたいだ。
…よし、と決心して、彼の腕を掴む。
「おわっ」
「ちょっと、トキワさん!ちゃんと治療受けてからにしてくださいよ!」
「へ…?あ、スマンスマン!」
一瞬キョトンとした顔をしたあと、困ったように笑いながら、彼……トキワさんはアクアちゃんの所に向かった。
それでようやく気づいたのだろう、アクアちゃんが頬を膨らませながら叱っている姿が見えた。
そんな風に叱られている本人は、ただ軽く笑っている。けれど、腕や足に付けられた傷は痛々しいモノだ。しかも、傷が大きいモノもある。
それでも、彼は笑う。
(…あんな反応は、まるで―――)
まるで、痛みを感じていないというように見えた。
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