雨と翠
その男性は、ミナモと同じようにルナリア族ではないのにその種族がよく着る服装に身を包み、赤いマントにも見えなくないマフラーを着けていた。頭には鉢巻とゴーグルといった、狩人を思わせる装備をしている。
…一応だけれど、その人と何度かアイオリスの街で見かけたことはある。
「…誰?」
いきなり話に割り込んでくるなんて、一体何なんだろうか。そう思いながら男性を軽く睨みつける。
「はあ…何でそういう事をするのか、お前は…」
「いいだろ、それが俺なんだからさ。…ま、名前を言わないのは失礼だからな…ちゃんと言うさ。俺はトキワ。そこにいるミナモの弟だ」
「弟さん…なの?」
確認を取るように聞けばミナモは頷く。
…でも、言われてみれば似ている。髪や目の色もそうだが、顔立ちが似ていると気付く。
「…で、アンタは?」
「……ミゾレ。」
「ふうん、ミゾレ、か…」
何度か頷いたあと、じっと私を見てくる。…そんなに気になるところがあるのか、私に←
そしていきなりトキワは溜め息を吐いた。
「やれやれ……そう来るか。」
「は…?」
本気で意味がわからなくて、思わずそう言う。するとトキワは私を睨んできた。
「……―――何があっても、仲間を守りきる。」
「え――…」
「そんなこと、考えてんだろお前」
彼の青い瞳が細められる。その視線は、まるで矢のように突き刺さる。
それにしても…――
「何で、わかったのよ…」
そう。先程トキワが言い当てたことはまだ、誰にも言っていない。…何故だ。エスパーなのか、彼←
けれど、それには答えない。彼はそのまま低い声で吐き捨てるように言う。
「そんな考えは、自分を壊していくだけだ。」
「っ!」
その一言に思わずカッとなる。
「じゃあ何?仲間を守るなっていうの!?」
「違う、そうとは言っていない」
「いいえ、今のはそういう風に聞こえたわ。つまり、私はドラグーンなのにドラグーンのことをしなくていいっていうの?」
「……違う。」
「じゃあ何なのよ!」
思わず怒鳴り返した。直後、何かが掠める。
なんとなく、足元を見ると、氷の槍がいくつも突き刺さっていた。…あと少しで、私の足に付きそうなものもある。
「え…ミナモ…?」
「兄貴がやったんじゃない。…俺がやったんだ」
戸惑いながらミナモを見て、聞く。が、彼が口を開く前にトキワがそう言った。
…そんな、馬鹿な。装備はどう見ても狩人なのに、ウォーロックのように魔法が使えるというのか。いや、もしかしたら、転職している可能性もあるのだろうけれど、彼の場合は違う。明らかに狩人の装備をしている、という点がある。
「そんなに驚くか?まあ、こっちにはサブクラスもグリモアもないから仕方ないか…」
「…どういう原理か知らないけど、さっきの答えはなんなの。」
「――…聞くのか?」
呆れたような、そして何処か哀れむような目を向けてくる。私が睨み返せば、相手の青い瞳がまた細められた。
そして、わざとらしく溜め息を吐いた。
「じゃあ、“演じる”ことをやめろ」
私の中で、何かが動揺した気がした。