雨と翠
「まぁ…ね。いつもはみんなの士気を高めてくれるようなことをしてくれるシノとリーリャが…あんな風に落ち込んでいれば、ね…」
「…俺が見た所、セージとヴェルデも何か思う所があったんじゃないのかな。」
「そうかもしれないわね。」
「……なぁ、ミゾレ。君はどう思った?」
「…うん?」
何となくミナモを見ると、私を真っ直ぐ見るように目を合わせてくる。
もう一度、彼は問いかけてくる。
「君は、今日の経験をどう思った?」
ざわ、と風が吹く。
「……そう、ね。やっぱり、樹海の厳しさを改めて知ったわ。」
「…怖いと思った?」
「ええ。確かに、怖いと感じた。」
樹海の中で命を落とす。帰ることも出来ずにそこで眠る。それが、探索をしている私達だって、そうなる可能性がある。改めて、それを実感した。…けれど。
「だからと言って、冒険者を辞める気にはならないわ。」
樹海を探索するうちに、好奇心が刺激されていく。知識が増えていく。満たされていく。
今まで、私が「形だけを受け入れて」ばかりでいたのかがわかる。外側は知っていてもその中身は知らない。そんなことが多かった。
けれど、今は違う。「戒め」から逃れることも出来る。一族に非難されようとも、「ヒト」らしくいたい。私はそう、願ったのだから。
知りたい、見たい。その欲は尽きない。自分の足で、しっかりと歩んで行きたい。だからこそ……
「成る程。それが、君の答えか…」
思わず多く語ってしまった。そのせいで、ミナモが苦笑を漏らす。
「…ごめんなさい」
「いや、謝らなくていい。…その気持ちは、ちゃんと、大事にするんだぞ?」
「わかっているわ。それに…もちろん、仲間の事も大事にするわよ。」
そう言った時、彼の肩がぴくりと跳ねた。
どうしたのだろう?と思っていると、ミナモの目がスッと細められる。
「…ああ。そうだな…。君は竜騎士でもあるのだから、そう思うのも当然と言えばそうか…」
「……あの、どうかしたの?」
「いや…ちょっとな。」
微笑みながら、ミナモがそう言う。…その時。
「どうせアレだろ?何処かの弟を思い出したんだろ?――兄貴」
ミナモと同じ髪色と目の色を持つ、長髪の男性がそう言った。