記憶が砕けた音


「ったく、どこに行きやがったんだアイツ!」

 少しはプリンスの装備に慣れてきたが、イライラしながら走るとなると少しもたつく。


 不思議のダンジョンを俺ことクロードとリーナ、トキワとナツハで探索していた所、トキワと途中ではぐれてしまった。

 ただでさえ、地図が一時的にしか役に立たないという特殊な迷宮で、だ。まあ…こちらだと後衛職でも多少はいけなくもないらしいが…。

 とはいえ、普通の迷宮と違って不思議のダンジョンには罠が設置されていることもあり、下手にバラバラになると危険だ。

 しかも今のトキワはルーンマスターだ。サブクラスはスナイパーとか言っていたが、アスラーガではレンジャーやスナイパー等は見かけない。一応周囲に合わせた結果、あまりなれない杖を使ってアイツは戦っていた。

 いつもとは違うスタイルでの参戦。色々とマズいと考えられる。それは俺もまた同じこと。

「クロード、アンタも少し落ち着きなさいよ!アンタまではぐれたら元も子もないわ!」

「っ…わーったよ」

 リーナに叱責され、歩くペースを遅める。振り返ると、呆れた表情で俺を睨んでいる。
 そこから少し遅れて追いつたナツハがやって来る。ごそごそと鞄を漁っているが…何を探しているんだ?

「あ、あった」

 そう呟き、取り出したのは冒険者必須アイテムのアリアドネの糸だった。

「トキワ兄さんが見つかったら、今日は早めに帰りませんか?」

「…そうだね、丁度他のアイテムも少なくなってきたし、頃合いかも」

「じゃあなおのこと、アイツを見つけねーと…あっ!」

「どうしたの…って、ちょっと!!」

 後ろでリーナの声が聞こえたが、気にせず向こうに立っている見覚えのある青年に向かって駆け出す。



「トキワ!探したぞ!!」


 俺が怒鳴りつけると、トキワはゆっくりと振り返り、目を丸くした。


「え……?」


「え?じゃねぇ!ただでさえ、アンタや俺が慣れないことをしてるってのに、一人でフラフラ抜けるのはやめてくれ!」


 一息で言い、軽く息を吐く。その雰囲気に圧倒されたのか、トキワはたじろぐ。

 そして、クオンの知り合いの占星術師の娘のようにオロオロし始める。…どうしたんだ、急に。

「どうした?」

「なんか、トキワらしくないわね…」

「トキワ兄さん?」

 追い付いたリーナ達も疑問に感じたんだろう、首を傾げている。


 しばらくして、恐る恐ると言うように、俺達を上目遣いで見ながら口を開いた。


「…えっと、俺のことを知っている人…なの?」


 あまりにも衝撃的な言葉に俺は絶句した。いや…リーナやナツハも同じだ…。

 というか「俺のことを知っている人」?それじゃあまるで……―――


「…どういうこと?」

 呆然としていたリーナがやっとのことで言葉を出すと、トキワは困ったように首を傾げる。


「その、全くわからないんだ…ここが何処で、自分が誰なのか…君達が誰なのかが」

「なっ…―――」

 その答えに再び絶句する。その横で俺はナツハに耳打ちした。

「ナツハ、これってもしかしなくても…」

「げ、現状で判断するなら……多分、記憶喪失…かも」

 なんだと……あのトキワが…?


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