枯れた森、真実は朽ち果て
突然自分達に向けられトキワは目を丸くして固まっていた。対し、ある程度予測していたのであろう、ミナモは「やっぱりか…」と呟いた。
「貴様たち"風ノ守"は唯一の…モリビト側の人間だっただろうに。それすらも忘れたのか。」
「なっ…!?」
「えええ!?」
俺とハルニアが思わず声を上げると、リーナに小突かれる。…いや、だって予想外すぎるだろう!?
「……どういう事なんだ。」
至っていつも通りにミナモは言う。トキワは…茫然としていたが、我に返ったのか、モリビトの少女を見る。
少女は何処か悲しげに睨んでいたが、やがて語り出した。
「"風ノ守"の人間たちは、人間でありながらも他の人間たちから疎まれ、避けられてきた。
原因は"血"。己の血は万能の薬となり、同時に敵と見做した者には“毒”となる。そのような力を持った人間であり、争いを望まぬ者達だった。
また、我らと違った形で人間からこの森を守っていた。その為、争いが起きる前に我々と"風ノ守"の人間は盟約を結び、モリビト側の人間となった。」
モリビトの少女の話を静かに聞く。相変わらずどこか達観したような口調で紡いでいく。
「協定を結んだ後、我々と"風ノ守"の者達は離れた。だが、盟約までは解いていない。
何故離れたのか。それは、貴様たち人間が樹海に入らぬように見張る為だ。」
つまり、人間でありながらモリビト側についた“人間の監視役”ってのが役割なんだろう。
が、話を終えるとミナモ達を睨みつける。
「なのに…なんて有様だ。これでは他の人間と同じではないか。貴様らも、所詮は人間だったというのか…!」
憎しみのこもった目で彼らを睨みつける。何かしてくるのではないかと判断したのだろう、トキワが弓に手を掛けるが、ミナモがそれを制した。
「……伝承。そうか……そうだったのか。」
何かに気付いたのか、ミナモはそんな言葉を何度も繰り返す。
「兄さん……?」
思わず、という風にトキワがそう呼ぶとミナモが軽く睨んだ。が、すぐにやめ、モリビトの少女の方を見た。
「恐らくだが、俺達兄弟の両親はその事を知っていたんだろう。…『時が来たら、我ら一族の役割を伝える』ってな。」
昔、そんなことを言っていたとミナモは続ける。
「だが、俺達が幼い時に両親は殺された。…だから、俺達にその“役割”は伝えられなかった。……もしあの日、あんなことが無かったら、この伝承は知っていたのかもしれない。」
淡々とミナモは語るが、その表情は暗い。トキワもまた俯いていた。が、恐る恐る口を開いた。
「…他の"風ノ守"の人に行けば聞けたかもしれない。けど、ヒイラギさんの里に行った俺は…それを許して貰えなかった。」
「……何故だ?行けば知ることが出来ただろうに。」
二人の身の上話を聞いてもなお睨んでいたが、先程よりは表情が和らいだ…気がする。そんな少女がそう返すと、トキワが少し顔を上げた。その表情は少し強張っている。