崩壊―朱の誓い―
このまま迷宮にいても今度は俺達が危ないだろう、ということでアリアドネの糸を使ってエトリアへ戻る。
出来るだけ騒ぎを起こさないように“彼ら”を運ぼうとする。そこに最近加入したレンジャーのヒイラギとメディックのクチナシがやって来た。
「やぁ、リーナ。って…随分と大変なことになったみたいだな」
「やれやれ……タルシスから来てもやっぱりこれか…。シキ親方もこっちには来ていないのに、この“仕事”は辛いねぇ……」
少し苦笑しながら話しかけてくるヒイラギと対照的に溜め息を吐くクチナシ。…確かこいつら、ギルドのような組織に入っているんだっけか。それでもこの【ルミナリエ】に協力してくれている。
「…で、どこのギルドなんだい?」
「多分、【エヴィンス】だと…」
「【エヴィンス】!?」
ギルドの名前を聞き、ヒイラギが目を見開く。
慌てたように俺の肩をガシッと掴んできた。…何だ、いきなり!?
「なぁ、そのギルドに金髪の男のレンジャーがいるハズなんだが、どうなった…!?」
「……俺の弟――トキワのことか、ヒイラギ」
聞いているのは俺になんだろうけれど、答えたのはミナモだった。それを聞き、ヒイラギは目を丸くした。そして小さく「君は…もしかして"風ノ守"の……」と呟くのが俺の耳に入った。
それが聞こえたのだろう、ミナモが頷き返す。
「おいヒイラギ、私情を挟むな……。で、そのギルドはどうなった?」
「え、えっと……五人中二人が生きてました!それ以外は……」
クチナシの問いにハルニアが答えるが、最後の方は俯き、言葉が続かなかった。その意味を察したのだろう、クチナシは「わかった」と言うように頷いた。
「じゃ、お前らはその二人をどうにかしろ。あとは俺達がやる。……ヒイラギ、"仕事"だ。」
眼鏡をついと上げながら言い、ヒイラギの肩を掴む。ヒイラギは渋々頷き、何処かへ行ってしまった。…多分、冒険者ギルドだろう。
「ほら、お前らは行った行った。早く行かねぇと手遅れになるかめしれないからな」
「そ、そうね…。ハルニア、先に宿屋に行って治療の手配を頼んできて!」
「はいっ!」
"仕事"とやらをクチナシが始め、リーナを横目で見ながら言い、彼女が頷きながらハルニアに言うと、パタパタと長鳴鶏の宿の方へ走っていく。
その姿を、俺はぼんやりと眺めていた。
◆
ハルニアが行ったお陰で、二人の治療はそんなに手間取ることはなかった。…元々この二人の傷が比較的浅かった、というのもあったからなんだろう。もしかしたら、あのメディックの人が……
何て考えていると、部屋に疲れた表情のハルニアと彼女の兄のメディック、アマイトが入ってきた。…ちなみに今はミナモの割り当て部屋に俺、リーナ、ミナモ、今入ってきたハルニアとアマイトがいる。
そしてミナモは未だに沈黙を保っている。