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崩壊―朱の誓い―


 ◆


 ツクスルの凄さを知ったあと、さらに下の階へ俺達は向かおうとしてた。

 途中、抜け道を発見してその勢いで地図の埋めてなかった部分を描こうと向かった先、熊の巣を見つけた。
 まあ、丁度いなくなったからラッキーと思いながら巣に置いてあった物を拝借していた。で…気づいたら戻ってきていて。
 いきなりだったから皆パニックになりかけた。その中でリーナが転けた。それはもう痛そうな音をたてながら。
 あ、これヤバい。なんて思ってたが…熊はそのままスルーした。

「…随分と人に慣れた感じの熊だねー」

「お、おう…。こんなこともあんのか……」

 呑気にハルニアと俺がそう話し、リーナが転んだ時にぶつけた所を擦っていた。その中で一人、ミナモだけが何処かを見詰めて固まっている…ように見えた。

「ミナモ…どうかした?」

 リーナが話しかけると、ミナモは一度彼女をチラッと見て、また何処かへ視線を投げる。視線の先は…丁度階段のある場所のように感じる。

「……胸騒ぎがするんだ。」

「え?」

「早く…下の階に行かないといけない気がしてな。」

 そう言うと一人歩き出した。…ってオイ!本当に行くのか!

「オイ待て、ミナモ!」

「一人は危険だ!…行くぞ!」

「えっ、あ、ハイッ!」

 一人で地下四階へ向かおうとする彼を俺達は追いかけていった。





 ◆


 運良く魔物に遭遇することなく、地下四階へ続く階段の前に着く。
 さすがにこの先を一人で行くわけにはいかないのだろう、ミナモはそこで俺達を待っていた。

「一体どうしたんだよ、ミナモ」

「いや……な。妙な胸騒ぎがして、気になったんだ」

 淡々と語るが、その表情は何処か険しい。…何だろう、この先に何かあるのだろうか。

 そう考えながら階段を降りていく。





 階段を降りた先で、俺達は息を呑んだ。



「…これは……」



「酷いな、こりゃ…」



 そこに広がっていたのは、まさに“惨状”だ。
 緑の大地を血で赤く塗らし、何人もそこに転がっていた。

 一瞬動けないでいたが、自分がメディックであるとハッとしたのだろう、ハルニアが慌てて倒れている人達の一人に近寄る。装備からしてパラディンの俺と年が近そうな男みたいだが……。

(…あれ?)

 このパラディンの男…何処かで会ったことが……?確か…――

「ギルド【エヴィンス】…だよな。」

「! 本当だ…」

 リーナも思い出したのだろう。俺達【ルミナリエ】とほぼ同時期に結成されたギルドで、ライバルになるんじゃないのかな?と思っていた。
 メンバーは確か、パラディン、ブシドー、レンジャー、メディック、カースメーカーだったか。今倒れている人達の装備からして、それだと感じる。けれど……


「一体何があったんだ…」

 執政院からはオオカミの群れのリーダーであるスノードリフトの討伐のミッションを受けている。多分、彼らも同じように受けたのだろう。そういえば、今はツクスルが待機している場所でもオオカミはいたな。…ツクスルが倒したが。

 鎧や傷を見る限りじゃ、何となく切り傷や噛まれたような跡がある。…多分、オオカミに襲われたんだろう。そして、全滅……

 パラディンを診ていたハルニアを見ると、彼女の顔が青ざめていた。それに心なしか震えている。リーナも気づいたのだろう。首を傾げながらハルニアに話しかける。

「…ハルニア?」

「こ、この人……手遅れだ……。もう、蘇生出来ない…!」

「なっ…!?」


 驚き、言葉を失う。ハルニアが冗談を言っている様にも見えない。ってことは……このパラディンはもう……。

「ほ、他の人は…!」

「そっそそ、そうだよね…!」

 わたわたしながらカースメーカーの少女に近付く。…って、そういえばミナモは…?
 ここに来てから何も言っていない気がするんだが……と考えながら振り返ると、ミナモは目を見開いて固まっていた。


「……ミナモ?」


 俺が話しかけると、ぴくりと肩を動かした。そして。


「……トキワ…?トキワなのか…っ!?」


 そう言って他の人と同じように倒れているレンジャーの人に近付く。長い金髪の男だ。頭あたりから血が流れた跡が見える。

「おい、おい!しっかりしろトキワ…!」

 傷を考慮して揺さぶることはせず、軽く頬を叩いたりして名前を呼んだりと声を掛けている。…この感じだと…知り合いだったんだろうか。

(…トキワか。)

 俺にはその人ともう一人…ユヅルさんって人とは話したことがあった。
 …そうだ、ユヅルさんは…?

 探せばすぐに見つかった。トキワのすぐ近くに腕辺りを血で染めたブシドーの女性が倒れている。

 一瞬怯んだが、それを掻き消すように首を振り、近付く。

 どうか、手遅れじゃありませんように、と祈りながらユヅルさんの手を取り、脈をみる。

 …手を取った時点でわかったが…温かかく、まだ、生きているとわかった。

「…生きてる!」

 思わず声を上げれば「本当!?」とハルニアがこちらを向いた。…カースメーカーの少女も駄目だったのだろう。すぐに表情が曇った。

 リーナの方を見ると、メディックの男を診ていたらしいが……俺に気付くと首を横に振った。…メディックの男の背中が血まみれで、出血量が多すぎると素人目でもわかる。

「ハルニア」

「わかってる!」

 やはりメディックとしてショックだったんだろう。少しフラフラしながらこちらに来る。
 ミナモの方を見ると、まだ声を掛け続けていた。…いや、脈をみた方が早いんじゃ、と思ったその時。

 目蓋が動き、薄く目が開かれた。

「! …トキワ……!」

「…にい…さん……?」

 小さな声だったが確かにそう発したのか。ミナモが頷き返すと、また目を閉じてしまった。

「っ…ハルニア!」

「あうぅ…わかってるよー!」

 今度はミナモに呼ばれ、トキワを診る。

「……うん、気を失ってるだけで、ちゃんと生きてるよ。」


 その言葉を聞いて、ミナモが安堵の息を吐いた。


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