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崩壊―朱の誓い―




 沈黙。


















 俺の肩に寄り掛かるルノアからは温もりが消えていく。

 それが、久々に感じた“死”で。


 どうしたらいいか、わからず動けないでいた。






 沈黙を破ったのは…








「うああああああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁッ!!!!!」






 誰かの悲鳴だった。














 自分が発したのか、誰かが発したのかわからなかった。けれど、瞬時にして冷静になる。

「うっあぁ……あぁぁ……うぁぁぁぁぁぁぁ…!!」

 悲鳴を上げながら、嗚咽を上げながら。ユヅルが泣いていた。


 目の前の“現実”を“現実”と認めない為に。否定する為に。


「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!こんなの…こんなの……!!ぁぁぁぁぁああああああああああああああああ…!!」

 壊れてしまったのではないのか、と言うくらい、彼女は声を上げる。


 そして、否定。目の前の現象を否定する。

 目を瞑り、何度も首を横に振ったって、変わらない。変わらないのに。


「ユヅル……」



 どうしたらいいか、わからない。


 今は冷静だけど、これが途切れたら、俺はどうなる?

 俺も、壊れてしまいそうだ。

 こんなこと、二度と見たくなかったのに。なのに……―――


 心がざわつく。冷静でいられなくなる。怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い…―――――





 蘇る、過去の光景。


 思い出すのは、赤、朱、紅。そして血の海。


 自分を狙う、銀色に輝く刃。


 俺と兄さんと妹を庇った両親から吹き出した鮮血。


 狂った人の顔。



 思い出したくもない、過去がフラッシュバックする。


「や、やめろ……」

 頭を抱える。あの時の声が、聞こえてきそうになり、耳も塞ぐ。

 ドクンドクンと、脈打つ音が早く聞こえる。





 ふっと嫌な予感がした。






 これ以上なにかあるのか?そんな風に思いながら顔を上げると、ユヅルが自分の刀を手にしているのが見えた。

 そして、その刃を自分の方へ向ける。…何をしようとしているのか、わかった。


「ユヅル、やめろ!!」

「は、離して!」

 暴れるユヅルを取り押さえる。腕の怪我もあるがやむを得ず、手刀を作って彼女の手首を叩く。怪我のせいで上手く力が入ってなかったのだろう、呆気なく刀を手放した。

「ッ…どうしてこんなことをしたんだ、ユヅル!!」

 強く言い、肩を掴む。そうすればユヅルは目を見開いて俺を見る。だが、すぐにその目には涙が浮かんでいた。

「だって……あんまりじゃない…!ルノアも、みんな…みんな死んでしまった…!これからどうしていけばいいのよ!!
 生きてくれって言われても……私には無理よ…!だから…後を追おうとしたのに、どうして…!!」

 何度もかぶりを振りながらそう答えた。最後の方は俺を睨みながら言ってきた。俺の腕を掴み、睨み付けてくる。…その腕が震えているのがすぐにわかった。













 どうしてこうなったんだ?


 誰かの判断ミスのせい?


 …誰の?


 リーダーと……俺だ。


 こうなってしまった原因は、俺のせいでもある。


 償う?どうやって?


 …目の前の彼女は壊れかけている。死のうとしている。


 それはいけない。止めないと。…どうやって?


 今の俺じゃ、臆病で何も言えない。怖くて、怖くて……



 ならば―――演じるんだ。“強いトキワ”を。そうすれば、きっと伝えられる…――――














「――…俺が何があっても守るから。アナタは死んではいけない。喩え、俺が死んでもアナタは生きて欲しい」

「…トキワ?」

 きょとんと首を傾げる。 そんな彼女に“俺”は微笑む。


「"約束"だ。なっ?」

 そう言って、彼女の手を包み込むようにして握る。しばらく瞬きをしていたユヅル。そして、泣きながら笑った。

「随分と…強情な約束ね……。」

 目を伏せて、しばらく黙り込む。黙り込んだ後、頷いた。


「わかったわ……。その"約束"、守るわ…トキワ…。」














 ああ、"約束"してしまった。



 …守っていかないと。





 この日から、俺は“俺”じゃなくなった。






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