第三話 壁と報告


「現状、堕天の怪物になってしまった者を戻す術は無く、処分する以外の方法が見つかってない状態です。」

「…時々あるんスよね。
 先回りしてる何者かが堕天の怪物ごと殺してるっていうのが。」

 人体実験による被検体の成れの果て。
 それが、「堕天の怪物」。

 その言葉だけが頭の中を巡る。
 
 不意に、きゅっと手を掴まれる。
 視線をやると、青ざめた顔をしているリュイがオレの手を握っていた。

(もし、オレが助けるのが遅かったら。)

 リュイは殺されていたのかもしれない。

 被検体という今の姿のままなのか。
 それとも、「堕天の怪物」という姿でなのか。

 マイナスの思考が巡る。

 思わず、リュイの手を強く握り返す。

「っ、痛い……」

 その声でやっと我に返った。

「あ……ご、ごめん、リュイ。痛かったよな…」

 強く握ってしまった手をそっと撫でる。

 …恐らく造られた存在なのだろう。
 それでも人間の手とよく似ていて。

「………守らないと、な。」

 ぽつり、とそんな言葉が零れた。

「そうですね。彼…いや彼女…?
 …リュイだけが唯一助かったというのも大きい。」

「可能なら騎士団で保護とかしたいんスけど……
 そこの所どうですかね…?」

 セオルドとリディーナがリュイを見る。
 その視線に慣れていないのか、リュイはオレの後ろに隠れてしまった。

 …二人の提案は確かに有難い。
 だが……

「…これは独り言みたいなモノだ。聞き流してくれて構わない。
 オレは、この子が人並の幸せを知るまでは、傍にいようと思っている。
 だから、手放すことは正直したくはないんだ。」

 一度言葉を切り、リュイを見てから騎士と王子を見る。

「そちらの提案は確かに有難い。
 恐らく…オレが未熟な神だから、何か足りないという事はあると思う。
 その部分の補助がそちらで出来るのであれば、力を貸して欲しい。」

 そう言って頭を下げる。

 変に見栄を張って、結局守れないでは意味がない。

 ……それなら、最大限に利用するというつもりだ。

 神として、どうかとは思う。
 けれど、時雨のように不死身というワケでもなければ。
 ユウサリのように魔術と護身術に長けているというワケでもなければ。

 未熟なら、未熟なりの考えを。

 それが、今のオレが出せる回答だ。

「……!勿論、協力は惜しまないよ!」

 何処か嬉しそうに、けれど慌てて顔を上げてくれと言うセオルド。

 ……良かった。なんとか騎士団と王族側の繋がりは取れそうだ。

 協力者


 
(…改めて考えると)

(結構凄い繋がりだよな…?)


 


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