第三話 壁と報告
「ハッ…竜胆さんが困惑してる……!?」
あわわ、戻って来てください~…とリュイに揺さぶられてハッと我に返る。
「しっかりしなさい若造。背後に宇宙見えてたわよ。
そして説明もしてないユーリス達も意地悪ね」
やれやれ、と肩を竦めているルナリーフ。
精霊に言われてハッとしたのか、3人共慌ててこちらを見る。
ローブの人物もフードを取り、長い金髪と海色の眼があらわになった。
「ご、ごめんなさい!まだ言ってなかったわね……。」
「こちらこそ無礼な対応をしてしまって申し訳ない…。
改めて……僕はセオルド・フォン=シュトライン。シュトライン王国の王位後継者です。」
そう言ってオレに対して跪く。
い、いや王子が何でこんな風にオレに頭下げてるんだ…!?
『落ち着け若造!人間からすればアンタは神話上の人物!たとえそれが新米だとしても!そこはしっかりしておきなさい!』
『わ、わかった…』
一瞬慌てそうになったが念話でルナリーフがフォローに入る。
前世の人間だった頃の感覚に引っ張られていたが、そうか…。
……人間からしたら、今度はオレの方が目上の存在というのか…。
なんというかすごく、実感がない…。
「あ、ああ。
オレは御影竜胆。影を司る神だ。
……新米の神だが、よろしく頼む。」
……まあ、結局新米の神というのは言うんだがな。
だって隠したところでボロが出そうだし……。
と内心ボヤいていたが、何処かキラキラとした目で王子はオレに視線を向けていた。
「いやぁ…まさかセオルド王子も一緒に行くって言い出したもんで……お忍びで来ちゃったっス」
…しかもお忍び……だと…?
「あはは……まあ時々セオルドも来る事があるから慣れてるけどね」
しかも慣れてるのかよ、ユーリス。
…なんだかこの様子だと、結構な頻度でセオルドは此処に来ている、のか?
「っと、言い忘れてたわね。
私、セオルドの魔術指導係もしてるの」
「あぁ……だからか」
ようやく納得のいく答えを聞いて理解した。
……理解したけど、何だろう、凄く仲が良いなこの二人?
「それで、ここに来た理由は?
調査の結果、出たんでしょ?」
早く聞かせろ、と言わんばかりにルナリーフが頬を膨らませる。
「おっとそうだったっス。」
テーブルお借りしますよ~とリディーナが言うと、いくつかの資料をそこに置いた。
騎士団が作成したのだろう。昨日、オレが見つけた例の場所の事が書かれている。
「竜胆様の言ってた通り、研究員と思われる死体が外に4名、施設の残骸から3名見つかったっス。」
「それと…殺されたと思われる被検体1名、堕天の怪物の亡骸が2体発見された」
リディーナとセオルドが資料を見ながらそう報告する。
報告を聞いていたユーリスの表情が曇る。
無理もないだろう。助かった者はいなかったのだから。
「…というか、堕天の怪物…?
確かによくわからない影が2つあったのは覚えているが…」
一体何だ?と聞けば、リディーナとセオルドの表情が強張った。
「え、聞いてはいけなかったヤツ…?」
「………いや、その、そう言うワケではないんスけど…」
明らかに歯切れの悪い回答をするリディーナ。
そしてどうする?と言わんばかりにチラチラとセオルドの顔を窺う。
「……ユーリス、いいかい?」
セオルドが少し心配そうに聞くと、彼女は頷いた。
「堕天の怪物。……人体実験の被検体の成れの果て。
人間性と理性、そして姿形を失って怪物の様な姿になった者の事です。」
表情を歪ませて、セオルドはそう説明した。
「………は?」
当然、というか。
理解が追い付かなかった。