第三話 壁と報告


 ◇

 結局、あの後警戒をしてみたが何も起こる事もなく夜は明けた。

 ……お陰であまり眠れていないが、まあこの程度なら何とかなるだろ、多分。

 そう考えながら欠伸を噛み殺していると、心配そうにリュイがこちらの顔を覗き込んできた。

「あの、竜胆さん……もしかしてよく眠れませんでした……?」

 蒼と翠の異なる綺麗な眼がこちらを見つめている。
 そこに映るオレは確かに眠そうな顔をしていた。

「んー…いや、武器の手入れしてたら夜が明けてただけだから気にするな」

 本当うの事言うと厄介な予感がしたので適当な嘘を吐く。
 …影人は言うだけ言って消えたし、よくわからん。
 というか…選択を間違えるなってどういうことだ…?

 今後何かを選択を迫られるような事でもあるというのか?

(……一応心に留めておくか。)

 そうしよう、と一人で頷く。
 その様子をリュイはキョトンとした顔で見ていた。

 ◇

 朝食を取った後、今後どうするかというのをもう一度考えようとした時、コンコンとドアをノックする音がした。

「ユーリスさーん、アタシっすー!リディーナ・ラステイクっすー!」

 と、聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。
 …そういえば、結果はユーリスの家で、と言ってたな。

「調査結果、わかったのかな」

「お、おう……そう言われると急に緊張してきた…」

 これで実は間違ってました、とか言ったらオレ自信無くすかもしれん。
 ネガティブな想像をしていると、ルナリーフにしっかりしろと言うように小突かれた。

『そう言う時はアレよ。神の予言が外れたとでも言えばいいじゃない』

 しかもそんな念話と共に。

「それはそれでどうかと思うんだが…?」

 まぁ…お陰で少し緊張は解れたが。

 そんなやり取りをしている間、ユーリスがドアを開けてリディーナと何か話していた。
 …と思ったら何かに気付いたのか「あら!」と声を上げた。

 何だ?と思ってそちらに顔を出すと、リディーナと目が合い、ニコニコしながら手を振ってきた。
 …騎士の少女の後ろに、白いローブを纏う人が居る、というのもその時に気付いた。

(え、誰……!?)

 というかオレ、今日はローブを着てる奴に何か縁があるな……?

 一人困惑するオレをよそに、ユーリスはリディーナと白いローブの人物を家に上げた。

 …まあ、家主のユーリスが何も言わない、という事は彼女の知り合いという事なんだろうな……。
 しかし一体誰なんだ…?

「まさかセオルドも来るとは思わなかったわ…」

「ふふ、驚かせてしまってごめんね、ユーリス。」

 親しげに白いローブの人物と話している。
 …ん?セオルド…?その名前何処かで聞いたような…。

 確か──

 ──あ、アタシはリディーナ・ラステイク!シュトライン騎士団、セオルド王子の直属の部下っス!

(そうだ、リディーナの自己紹介、で………ん?)

 セオルド「王子」…?
 え、王子?王子ってあの王子?プリンス?

「…………???」

 なんで?
 ユーリスなんでそんな人と普通に話してるんだ??

 
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