第三話 壁と報告


 ◇

 ──夜

 不意に人の気配を感じて、目を覚ます。

 ……いつの間にか寝ていたのはさておき。
 すぐにリュイの無事を確認する。

「ん~……」

 気持ちよさそうに寝息を立ててリュイは眠っていた。
 よかった、問題は無さそうだ。

 確か獣避けの結界は多少の人避け効果はあったはずだ。

 …それを突破したというのだろうか。

「……」

 呼吸を整える。
 そして、影を意識する。

 ユーリスの家周辺に変化はない。
 だが確かに気配は……

「…影?」

 影だ。影の方からする。
 どういうことだ、と思って部屋を見まわす。

「………」

 ソレは確かに居た。

 月明りの差し込む窓を避けるように。
 部屋の影の部分に、紺色のローブを被った何かが立っている。

「……は、」

 誰、と言う前にソレの顔が見えた。

 ──あれはどう見ても、オレだ。

 いや、正確には……

(神になる前の、あの時のオレ…?)

 赤い左目、身体を裂くようにして存在する左腕と両足。顔にも及んでいるのか、ヒビが少しだけ見える。
 …服装こそ違うが、よく似ている。

 ……否、そんなことより。

「一体いつ、此処に侵入した?」

 何の為に、此処に来た?

 リュイを守るように前に出る。
 壁際にいるオレに似たソレは動かない。

 ……動かないからと言って、油断は出来ない。
 それにオレに似ているという事は…

(恐らく、影属性は使える可能性が高いと見ていいだろうな)

 見せかけじゃない限り、だが。
 目の前のソレを睨みながら周囲と影に気を配る。

 そうして数分経ったのだろうか。数秒かもしれないが。

「……お前は、間違えるなよ。竜胆」

 不意に、ソレは口を開いた。
 予想通り、オレと同じ声だ。
 …ただその声には感情がかなり無いように思えたが。

「オレは、【影の『化け物』】の影人カゲビト
 ……本来、こうして会うつもりはなかったが…。少し気掛かりでな」

 目の前の──影人カゲビトと名乗ったソイツはリュイを見た。

「…もう一度言う。お前は、選択を間違えるなよ」

 それだけ言うと、影人はフードを深く被り直して影に溶けていくように消えた。

 待て、と声を掛ける暇もなく、気配は完全に消えた。

「……なんだったんだ、今のは」

 
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