第三話 壁と報告
「ま、ある意味一番いいのは旅でもするといいんじゃないの?」
「無茶を言うな、金も何もないんだぞ…。
オレは良くてもリュイには色々と必要かもしれないじゃねぇか…」
身一つでこの世界にやって来たんだ。
神である以上、人間に必要な食事などは最悪取らなくても問題はない。
…だが、リュイもそうとは限らないだろう。そう考えると無一文というこの状態も本当によろしくない。
「ああ、それなら多分…例の情報提供の報酬は出るわよ。
とはいえ旅をし続ける程でもない可能性はある…むむ」
……本当に、どうしたものか。
はぁ、と何度目かわからない溜め息を吐いた。
「…あ、ユーリスが呼んでる。一旦戻るわよ」
「あぁ…。」
重い足取りで、神域から出ていく。
次の瞬間にはユーリスの家の中だ。
いつの間にか起きたのだろうか、リュイがオレを見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ん、起きたのかリュイ」
「はい!…たくさん寝ちゃいました」
えへへ、とはにかんで答えるリュイ。
……やっと、普通に、幸せになれるかもしれないのに。
(どうしていきなりこんな壁があるのだろう…。)
心の中でそう独り言ちながら、そっと頭を撫でた。
◇
神域の中で色々と考えていた結果というか、なんというか。
案の定日は暮れていた。
無一文である、というのさっき話し合った時にバラした結果、即刻ユーリスにも伝えられ今日は泊っていくといいと言われてしまった。
「…本当、何から何まですまないな」
夕食まで頂いてしまったのでせめてものお返しという事で洗い物をしながら、改めて伝える。
「いいえ、私の方こそ…。
まさか神様とこうして話せただけでも十分嬉しいのに…ふふ、なんだか貰いすぎてしまった気さえするわ。」
「…ほーんと何も出来てないから、色々と話をしただけなんだけどなぁ」
夕食の時、ファイニアでどうしているのかを少し話しただけだったが、思ったより食いつかれてしまったのを思い出す。
オレは時雨程何処かへ行ったりすることもなければ、ユウサリのように研究とかをしている訳でもない。
──…寧ろ、未だに「神とはどう在るべきなのか」を悩んでいる。
まあ、さすがにその事は言わなかったが。
「…ファイニアの神話って、今も生きているって感じがするわね」
「生きている神話、か」
人間から見ればそう感じるのだろうか。
……ファイニアに居た時は…ユーリスの言うような感じはなかった。
どちらかといえば停滞しているようにも思えたのだが…。
(ああ……案外、生きているのかもしれないな)
自分が神になったこと。
よくよく考えれば、これも「今も生きている神話」だからこそ成せたことなのだろう。
そう言う風に考えれば……案外悪くないのかもしれないと思った。