第三話 壁と報告


「そうだ、リディーナの所とか?」

「成る程、騎士団か…悪くはない。
 ……だがそれはリュイと君が離れる事になるがいいのか?」

 ………。

「それは……困るな。」

 うん、普通に困る。
 幸せになるまで傍に居るって決めたのに、すぐに手放しては意味が無い。

「じゃあ振り出しだな。」

「うぐ……」

 また最初からの考え直し。
 …正直イツキが何故殺しに来るのかの理由がわからない以上、逃げるか隠れるかの選択肢くらいしかない。

 …あれ、というか。

「イツキって強いのか?」

「そうだな…強いか弱いかて言えば強いだろうな、アレは。
 彼が裏で何をやっているのかは知らないが、相当な血の匂いがする。」

 裏で何かやってるかもしれない?
 しかも相当な血の匂い??

 オレ、というかリュイは相当ヤバい奴に目を付けられたのでは?

 何故だろうか、急に寒気を感じる!!

「ま、神様らしく君も本気出せば勝てる筈だと思うけど」

「狂月の精霊サン?無茶振りってご存じ??」

 どう考えても無茶振りだが?
 それともなんだ?
 時雨に喧嘩売ったあの時みたいなことでもすれば……いいのか…?
 …アレ一種の黒歴史みたいなモンなんだけどなァ…!

(衝動的なのもあって色々やろうとしたよな…。魔力食いしようとしてこう……時雨の唇を)

 ふいに、あの時のやった事と感触が蘇って。

「ダァァァァーーーーーッ!!!あの時のオレの馬鹿野郎ッッ!!!」

 思わず口元を押さえて蹲る。
 本当にあの時のオレ、何を考えてやったんだ!?

(いや確かに本気ではあったけど!!でも、でもよ…ッ!!)

 無我夢中だったとはいえ、今考えれば愚かしい事しかしていない。
 一歩間違えれば、オレは消えていたかもしれないとかいうう事を。

「…一人で百面相して何を悶えているんだか。」

 呆れた様なルナリーフの言葉でハッと我に返った。
 …そう言えばコイツいたわ。

「どうした、一人反省会でもしてたの?」

「……ま、まぁ…そういう所だ」

 …何だか色々と余計な事まで思い出してしまった気がするが。

「ハァ。その様子だと本気出してイツキと戦うのは辞めた方がよさそうね」

「うぐ……改めて言われると神様としての面子が立たねぇな…」

 ……それに、今のオレでイツキと真っ向から戦うのは何かが違う気がしてならない。
 お互い、何も知れていない。知れていないのに対立している。

 これは知るべきなのか、そうでないのか。

(知るべきだと、思うのに。)

 こんな現状では、何も出来そうにない。

 
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